あの宇部商「サヨナラボーク」の真実を、捕手・上本達之が明かす (5ページ目)

  • 元永知宏●取材・文 text by Motonaga Tomohiro
  • photo by Kyodo News

──審判のボーク宣告によって、延長15回の熱戦は突然幕を閉じました。

上本 主審がホームベースの前に出てきたときに「ああ、終わったな」と思いました。ボークかどうかは一瞬わかりませんでしたが、それだけはわかりました。ピッチャーが一番体力的につらかったと思うけど、僕もしんどかった。だから、「ずっと続いてほしい」と思っていながら、ゲームセットの瞬間には「やっと終わったか」と思いました。それ以外はほとんど覚えていません。ホッとしたんじゃないですか。

 状況が把握できていなくて、悔しいというのもまだなかったですね。しばらくしてから「自分のせいで負けた」と思ったような気がします。

──ボークを宣告された瞬間、呆然と立ち尽くした藤田投手は、しばらくして「今日の投球は100点です」で言ったそうですね。

上本 藤田にどんな言葉をかけたのか、まったく覚えていません。でも、整列して相手の校歌を聞くときには、なぜか横に藤田がいました。どうしてだろう? 僕がわざわざそこに行ったのか、それもわかりません。本来なら小柄な藤田の隣に僕がいるはずはない。どうしてだったんでしょうね。

 映像を見返してみると、どう見ても完全にボークです。勇気はいったかもしれませんが、主審のナイスジャッジだったと思います。おかげで僕たちの試合がこうしてみなさんの記憶に残っているのですから。ドラマチックな場面にいることができて、幸せですよね。藤田には「オレのおかげやぞ」と言っています(笑)。

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