なぜそこにいる? 東海大菅生は
神出鬼没の「忍者」がショートを守る

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Kyodo News

 一死から3番打者の島村功記を迎えた場面。島村は富山大会でチームトップの2本塁打13打点をマークしている右の好打者だった。田中も試合前に警戒する打者として島村の名前を挙げている。東海大菅生にとってはすでに3点のリードはあったものの、ここで島村の出塁を許すことは、高岡商に反撃の機会を与えかねない。

 そんな大事な場面で、田中は大胆に三遊間深くにポジショニングを取っている。

「前までの3打席を見て、ずっと引っ張りのスイングをしていて、タイミングも早かったので」

 するとその初球、島村の打球は田中の思惑通り三遊間に飛んできた。田中はそのゴロを正面に回り込んで捕球する。しかし、田中が捕った位置は三遊間の奥深く、土と芝との境目のわずか手前だった。ここから田中は右足で踏ん張り、一塁に向かってノーバウンド送球をする。166センチの小柄な選手とは思えない、強烈な球筋だった。

「あそこからノーバウンドで正確に投げる自信はあったので、アウトにできてよかったです。入学した頃は肩が弱かったんですけど、脚回りを鍛えたことでスローイングが強くなりました」

 田中の遠投距離は90メートルほどだという。甲子園球児としては平凡な数字である。しかし、田中は「遠投と送球は全然違う」と断言する。下半身を使ってリズムよく投げるのが、田中流スローイング術だった。

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