杉谷拳士が振り返る、帝京vs智辯和歌山「たった1球の敗戦投手」 (3ページ目)

  • 元永知宏●取材・文 text by Motonaga Tomohiro
  • photo by Jiji photo

――準々決勝で対戦したのは智辯和歌山。ここには、1年生のときから活躍する広井亮介投手、橋本良平捕手(元阪神タイガース)という注目選手がいました。全国優勝経験のある強豪同士の試合は、序盤から乱打戦になり、8回が終わった時点で4対8。帝京の敗色が濃厚でした。

杉谷 9回表にやっと僕たちの反撃が始まりました。1番打者がヒットで塁に出て、2番がデッドボール、4番の中村さんからヒットが続いて追い上げて7対8、ツーアウト満塁の場面で僕に打席が回ってきました。キャプテンの野口(直哉)さんに何かを言葉をかけてもらったのですが、内容はまったく覚えていません。でも、監督に言われたことだけは強烈に残っています。

――1点負けている場面、ツーアウト満塁。一打出れば逆転、しかし打ち取られればそのままゲームセット。3年生の先輩たちの最後の夏はそこで終了です。

杉谷 監督には「おまえがここで打てなかったら、来年、再来年はないからな」と言われました。その言葉を聞いた瞬間、「なんだ、それ?」と思いました。最初の夏で野球人生が終わってしまう。「打てなかったら帰ってくるな」とも言われたような気がします。その瞬間、ムチャクチャ追い込まれたことを覚えています。

――甲子園で何度も苦しい戦いを制してきた勝負師ならでは言葉なのでしょうね。

杉谷 打った瞬間は「やってしまった......」と思ったのですが、サードとショートの間をうまく抜けてヒットになりました。「いやー、危ない、危ない」と一塁ベースで胸を撫でおろしました。次のバッターが秋まで4番を打っていた沼田隼さんだったので、責任を果たせてホッとしました。

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