秩父の山奥にアマ野球の巨匠が来た。「歌舞伎打線」の連打で狙う甲子園 (2ページ目)

  • 高木遊●文・写真 text&photo by Takagi Yu

「『雨が降って練習が休みにならないかなあ』じゃ、うまくなりません。『早くグラウンドに行きたいな』って思わせないと。野球嫌いにさせたら指導者失格ですよ。日本の野球は小学生から監督がサインばっかり出してがんじがらめだけど、僕は選手主体のスタイル。ウチの選手たちは野球がどんどんうまくなるから、楽しそうにやる。だから、大学でも続ける選手が増えてきています」

 チーム最大の武器は「小鹿野歌舞伎打線」だ。江戸時代から小鹿野で行なわれている町民たちの芝居一座で、そこで使われる拍子木の"連打"と安打の"連打"をかけて、石山が命名。公式戦のスタンドではメガホンとともに拍子木が打ち鳴らされる。

 昨年秋と今年春の公式戦では6試合で60得点を叩き出して、昨秋の県大会では16強入りを果たした。甲子園出場経験もある本庄第一にも10対11と肉薄した。

 石山の打撃指導は、「金属バット打ち」と呼ばれるような上半身の力に頼って本塁寄りの手(右打者なら右手)で押し込むのではなく、下半身の力を使って投手寄りの手(右打者なら左手)でボールを弾くイメージを描く。そのために芯の狭い木製バットで打撃練習をさせているが、どの選手も体格に関係なく外野に鋭い打球が次々に飛んでいくのが印象的だ。

 現在、部員は女子マネージャー2人を合わせて34人。全校生徒が240人弱のため男子生徒の4人に1人は野球部というわけだ。

「石山さんに教えてもらったらすぐに、打球の質がガラリと変わった」と練習体験会で驚いた地元の中学生たちが続々と入部するようになった。これまでは地元に好選手がいても、遠方の私立校などに流れていたが、今年のレギュラー9人中8人が地元・秩父地域出身の選手だ。

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