初回6失点のベンチで...。
大阪桐蔭を蘇らせた西谷監督の「言葉学」

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro
  • 大友良行●写真 photo by Ohtomo Yoshiyuki

 ヒット2本と相手のミスも絡み同点に追いつくと、「一気に行くぞ!」と代打・西嶋一波のタイムリーで逆転。9回にも追加点を挙げ、結局、11対8で乱戦を制した。

 3番手で登板したエース・徳山壮磨の踏ん張りは見事だったが、劣勢のなか、チーム全員で踏みとどまり、終盤の逆転劇へとつなげた。まさに近年の大阪桐蔭の強さを象徴するゲームだった。

 そして、史上初の大阪対決となった履正社との決勝戦。ポイントとなった投手起用にも、西谷監督の読みと言葉があった。エースの徳山は決勝まで4試合、31イニングを投げており、相応の疲れが考えられた。そこで西谷監督は試合前に選手たちを集め、こう言った。

「今日の徳山は打たれるからな」

 一瞬、選手たちは「えっ!?」という表情になったが、それまで好投を続けてきたエースが打たれたときに慌てさせないための予防線でもあった。

 一方、徳山には「飛ばしていけ。ひとりで投げんとあかんという圧迫感は持たんでいいから」と伝えていた。

 また、準決勝までは野手として先発出場し、リリーフも担う根尾昂(ねお・あきら)をベンチ待機させた。根尾には「苦しい場面でいける準備をしておいてくれ」と言い、選手たちにはこう告げた。

「今日は総力戦で、後半勝負になる。その後半に、サッカーで言えば"本田投入"の準備はしているから、思い切りいってくれ」

 いろんな言葉で選手たちにイメージを持たせるのが西谷流であり、そのタイミングも絶妙なのだ。

 8回に3点差を追いつかれるも、9回に5点を勝ち越し、最後は「ああいう厳しい場面でメンタル的にも任せられるのが根尾」と、満を持して"本田を投入"した。根尾は履正社の粘りに苦しんだが、無失点に抑え、優勝を飾った。

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