遅くても大丈夫。健大高崎の
チーム最鈍足選手が語る「機動破壊」

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • 大友良行●写真 photo by Ohtomo Yoshiyuki

 この札幌第一戦で健大高崎が記録した盗塁は、わずかに1つだけだった。だが、機動破壊の脅威は盗塁だけにとどまらない。相手バッテリーがランナーを警戒することで、打者が狙い球を絞りやすくなるという一面もある。

 渡口の2打席目は、健大高崎が3対0とリードした3回裏、一死一塁で回ってきた。カウント2ボールからの3球目、渡口はアウトコースのストレートを逆らわずに右中間へと運んだ。渡口はこの場面を振り返る。

「2ボールだったので、振り遅れないように外のストレートに絞っていました。一塁ランナーの山下(航汰/2年)がバッテリーにプレッシャーをかけてくれたので、山下とのいい共同作業になったと思います」

「盗塁をされたくない」という心理が働くと、捕手はスローイングに移行しやすいアウトコースのストレートを要求したくなるもの。渡口は3打席目も一死一塁の場面で、同じようにアウトコースのストレートを狙い打ち、三遊間を抜く強烈なヒットを放っている。このような無駄のない攻撃でリードを広げ、健大高崎は11対1と圧勝した。

 渡口は攻撃面について「理想的なゲームだったと思います」と振り返る。この結果を見て、他校はさらに健大高崎の「機動破壊」に警戒心を強めるに違いない。

 そして渡口の名誉のために書いておくが、渡口は決して「盗塁ができない」わけではない。昨秋の公式戦でも盗塁を1つ決めているし、練習試合を含めれば52試合で19個の盗塁を成功させている。渡口は「盗塁は練習すればできるようになる」と断言する。

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