長島三奈「覚えていますか。2006年の『代打の神様』今吉晃一くん」 (3ページ目)

  • スポルティーバ●文 text by Sportiva   露木聡子●撮影 photo by Tsuyuki Satoko

――実際、取材すると、どういう選手だったんですか。

「テレビで観ていると元気いっぱいで、ムードメーカーなんだろうなと思うじゃないですか。実はインタビューすると本当にまじめで、ひと言ひと言気持ちを込めて、話してくれるんです。

 おそらく本音を言えば、全部の打席に立ちたいし、痛みだって我慢していると思うんです。でも、そんな泣き言は絶対に言わないし、『僕は代打というチャンスをもらえただけで、本当にうれしいです』と話すんです。彼の中で、痛みやそういうつらさを乗り越えたうえで甲子園にやってきたんだな、と。その逆境を乗り越えた強さが雄叫びだったり、明るいキャラクターにつながっていると思ったんです。周りを元気にさせることができるのは、人よりつらい思いをしているからなんだ、と今吉くんから教えてもらいましたね」

――彼の最後の打席は準決勝、早実戦(0-5で敗戦)でした。

「『代打、今吉』とアナウンスされたときの歓声と拍手。18年、高校野球を見ていますが、そんなシーンは見たことないです。斎藤(佑樹)くんとの対決というのもあったし、『今吉なら、何かやってくれるんじゃないか』と観衆の期待もありました。みなさん、もしかして『熱闘甲子園』を見てくださって、ケガのことを知っていたのかもしれません。そして、思いっきりの空振り三振をするんです。

 試合に敗れ、球場を出て行くとき、彼がスタンドに向かって、ガッツポーズをしたんです。球児はやってはいけないと言われていますが(笑)。お客さんたちから敗れた鹿児島工業のみんなに、そして今吉くんに向けての拍手がいつまでも鳴り止まないんです。感謝の気持ちで、思わずこぶしを突き上げちゃったのかな、と。最後は球児らしく、グラウンドに一礼して去っていったんです」

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