甲子園で際立った存在感。ユル強い個性派チーム、嘉手納の夏 (4ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • 大友良行●写真 photo by Ohtomo Yoshiyuki

 思えばこの嘉手納というチームには、ところどころ「ゆるさ」が見えた。外野手がファンブルしていても、二塁走者がホームまで還ってこられない。試合序盤にはエラーも相次いだ。そして大城のプレーから垣間見える指示の不徹底......。嘉手納はそれでも圧倒的な力を見せ、前橋育英に勝った。

 大蔵監督は前橋育英戦の試合後、こんなことも言っている。

「地元の子どもたちが好きな野球を思い切りできる環境を作る。多感な時期に、道から逸れてしまうような子がいる中で、野球を選んでくれている子どもたちに思い切り楽しんでもらいたい」

 嘉手納のある中部地区は野球が盛んな地域ではあるのだが、沖縄南部在住の人に聞いてみると「選手たちの精神年齢が幼い」という。よく言えば奔放、悪く言えばルーズ。そんな気質を持つ選手たちの力を最大限に引き出すため、大蔵監督はいろいろと言いたいことを押し殺しながら采配をしているのだろう。

 前橋育英に快勝して迎えた3回戦は、強豪・明徳義塾(高知)と対戦。8回裏に6連打で4点を奪うなど「らしさ」は見せたものの、中盤に重ねた大量失点が響き、5対13で大敗した。前橋育英戦と明徳義塾戦を比べて、まるで別のチームのようだったとは思わない。前橋育英戦でもひとつ間違えばコロッと負けていた可能性はあっただろう。勢いで野球をする分、常にもろさと背中合わせだった。

 近年、興南が甲子園春夏連覇を成し遂げたり、沖縄尚学が春のセンバツを2度制したりと、沖縄野球は全国でも有数のレベルになってきた。多くのチームが沖縄特有のルーズさを排して強豪への道を歩む中、嘉手納はどこか「一昔前の沖縄のチーム」を思わせた。だが、そんなチームが沖縄大会を制し、甲子園で独特な存在感を放った。こんな年があってもいいじゃないかと思わせる、個性派軍団の健闘だった。

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