「これがオレの生きる道」。
変則フォームで戦う球児たちの心意気

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • 大友良行●写真 photo by Ohtomo Yoshiyuki

 また、唐津市立浜玉中時代からのチームメイトである外野手の田中敦也は、谷口についてこう証言する。

「中学の頃はもう少しオーソドックスな投げ方をしていました。高校1年の頃に一度フォームを崩して、1年の冬くらいから変則的な形になっていきました。やっぱり苦しんでいた時期を見ているので、フォームが固まってよかったなと思います」

 東北・渡辺と同様に、谷口も投球フォームを見失った時期があり、試行錯誤の末にこのような形に行き着いたのだった。そうした経緯があるからだろう。チーム内で谷口の変則フォームをマネしたり、ネタにすることはないという。

 甲子園では優勝候補の一角を占める木更津総合を相手に、8安打を許しながら2失点と粘り強い投球を見せた。ランナーがいなくても、通常のモーションとクイックモーションを織り交ぜ、巧みに打者のタイミングを外した。だが、善戦むなしく0対2で敗退。谷口は大学でも野球を続ける予定だが、今のフォームは変えるつもりだという。

「140キロ以上のボールを投げられるようなフォームを作っていきたいと思います」

 夏の甲子園大会を彩った変則フォームの男たち。彼らは決して悪ふざけで変則フォームを始めたわけではない。むしろその逆で、自分自身が生き残るため、どうすればチームに貢献できるか暗中模索した末に「これしかない」という形を掴み取ったのだ。

「イロモノ」という目で見られることを承知で、それでも彼らは自身のフォームにプライドを持ち、甲子園という大舞台で戦ったのだった。

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