やんちゃ軍団をやる気にさせた高松商・長尾監督の対話術 (5ページ目)

  • 田尻賢誉●文 text by Tajiri Masataka
  • 岡沢克郎●写真 photo by Okazawa Katsuro

 これこそ、長尾監督の求めていたものだ。1球目は送りバントのサインを出している(空振り)。安西は「何としても二塁に進めたい」という監督の意図を理解し、相手を観察して成功する可能性の高い策を選択した。得点には結びつかなかったが、まさに、選手自身が「ええところを前面に出した」結果だった。

 投手を中心に守りを固め、バントでコツコツと手堅く得点を重ねる。無死一塁で強攻策に出ようものなら、OBたちから批判される。そのせいで、監督は下手にサインを出せない。無難な策を選択する。それが伝統校のイメージだ。

 準決勝の秀岳館戦の11回表、一死から俊足の2番・荒内が出塁した後も、従来のイメージ通りならバントだろう。二死になっても得点圏に送って4番に期待するのがOB好みの野球。だが、長尾監督は3番・米麦圭造にヒッティングを命じた。

「あのときは、(一塁走者にも)『いつでも走っていい』にしていました。走らなかったですけど。あそこで打たせたことが、結果的にサードのミスを誘ったんでよかった」

 強攻した米麦の三塁ゴロが相手失策を誘うと、さらに植田響介、美濃晃成の連続適時短長打を呼び、55年ぶりの決勝進出につながった。リスクはあるが、任せる。「ええところを前面に出す」采配が功を奏した。

 植田響介、植田理久都が大会史上初の一大会兄弟本塁打を記録したように、コツコツつなぐのではなく、思い切ったスイングする打者を並べた打線は、やまびこ打線で一世を風靡した蔦(文也/元池田高校監督)監督に憧れてのもの。このスタイルもまた、伝統校らしくないところだ。守り重視の“四商スタイル”に一石を投じているともいえる。

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