【高校野球】甲子園まであと一歩。ノーシード日立一高、激闘の夏 (4ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro

 東洋大牛久との準決勝に勝利した瞬間、応援に駆けつけた多くのOBたちは立ち上がれないくらい号泣していた。もちろん、選手と監督の中山とともに本気で甲子園を目指してきた皆川と小池だったが、この旋風ぶりには戸惑いを隠せなかった。

 決勝の相手は霞ヶ浦。夏の甲子園に出場した経験はないとはいえ、昨年までの7年間で5回も茨城大会決勝に進出している県内屈指の強豪だ。それでも決勝会場の水戸市民球場には、日立一高の30年ぶりの甲子園を見届けようと、日立一高の全校生徒、保護者、OB、ファンが一塁側応援席を埋めた。

 試合前のシートノックを見守った皆川は、「選手たちがいつも以上に舞い上がっているな……」ということを感じていた。戦前から「勢いだけで勝てる相手ではない」と冷静に分析していただけに、不安は募る。そこでふと、小池の姿がないことに気づいた。

 満員のスタンドでその姿を探していると、一塁側スタンドの日立一高生徒、保護者、一般ファンが分かれて座るちょうど境目のあたりで、小池が何やら叫び声をあげているのが見えた。しかも、両手にはしっかりと白手袋まではめて、まるで「タイガース応援団」そのものだった。

「みなさま~! 本日は水戸市民球場、5万3000人のお客様(※水戸市民球場の収容能力は2万人)にお越しいただきまして、誠にありがとうございます! 日立一高野球部監督、中山顕になりかわり、厚く御礼申し上げます! 本日の決勝戦、なんとしてでも勝利をつかみ取り、30年ぶりの歓喜の瞬間を、ともに分かち合おうではありませんか~! グラウンド、ベンチ、そしてスタンドが一体となった全員攻撃、これこそが日立一高の強さの源泉であります!」

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