【高校野球】地方大会秘話。古豪復活を託された2人の野球ド素人 (5ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro

 そして、小池は忙しい仕事の合間を縫って、選手が活躍しているシーンを編集したモチベーションビデオを制作したり、セミナー用に『Way オレたち日立一高野球部が甲子園の土を踏むために』と題された小冊子を作成する。

 その小冊子を配りながら、小池はまるでビジネスマン向けの自己啓発セミナーのように、選手たちに語りかけた。たとえば、日立一高の部訓に「謙虚であれ」という一文がある。「謙虚」とは何か? そんな話をする際に、小池はコップを2つに、缶コーヒーと牛乳を用意する。片方のコップにはコーヒーを多めにつぎ、もう片方のコップには少なめにつぐ。そして選手に聞くのだ。

「どっちのコップのほうが、牛乳がたくさん入ると思う?」

 答えは明白。コーヒーの量が少ない、空き容量の多いコップだ。

「牛乳は栄養価が高いものだよね。どっちが自分にとってプラスになるか、わかるよね? このコップを『自分の心』だと思ってみよう。コーヒーはつまらない自尊心。つまり、心の空き容量が多い人のことを『謙虚』というんだ」

 こうした内容はすべて小池が考えたオリジナルのものだ。皆川も小池も広告代理店に勤めていることで、プレゼンテーション能力が自然と磨かれていた。メーカーが言いたいことをそのまま言っても、消費者には伝わらない。そこで広告代理店が「こんなコピーやビジュアルで伝えたらどうでしょう?」と提案する。そんなスキルを生かすことができたのだ。

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