【高校野球】地方大会秘話。古豪復活を託された2人の野球ド素人

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro

 翌2012年の1月、皆川は中山から「もうひとり、日立一高のOBでセミナーをやらせようと思っているヤツがいるんだ」と告げられる。皆川はなかば当てずっぽうで「もしかして、小池さんですか?」と聞いてみた。中山は「なんでわかったの?」と目を丸くした。

 小池康裕は日立一高の有名人だった。年齢は中山と同期で、皆川の1学年上。皆川のなかで強烈な印象として残っているのは、制服がない日立一高で、いつも阪神タイガースの法被(はっぴ)を着て暴れていたことだ。小池も野球部には所属しておらず、バドミントン部だった。

「中学までは野球部だったんです。でも、中学3年のときに阪神が優勝したんですけど、僕はその瞬間に立ち会えなかった。『なんで掛布コールができなかったのか?』と悔しくて悔しくて……。それで高校では野球部に入らず、阪神の私設応援団に入ったんです」

 そんな嘘のようなことを真顔で話すのが、小池という男だった。高校時代、野球部の応援にやって来た小池は外野スタンドに入り、ペンキで文字を入れたビニール傘を大量に広げて「飛」「ば」「せ」「!」「こ」「こ」「ま」「で」「日」「立」「一」という一文を完成させた。大会本部から「応援は内野スタンドでしてください」と怒られ、移動を余儀なくされた小池の「内野じゃ、ファウルだよ!」というコメントは、地元新聞に掲載されたという。

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