横浜高の名将・渡辺監督が最後の夏に語った「悔恨の思い」 (3ページ目)

  • 柳川悠二●文 text by Yanagawa Yuji
  • 大友良行●写真 photo by Ohtomo Yoshiyuki

 小倉氏が退任したのが昨年夏。渡辺監督にとっても、横浜高校にとっても、大きな転機だった。小倉氏の代わりは、この秋から監督を務めることになる32歳の平田徹部長が務めてきた。

「盟友の小倉が退任したあとで、私と平田でどうやって強いチームを復活できるか不安でしたが、小倉がいない分、昔に戻って老体に鞭打ってやってきたことを、選手が理解してくれた。このまま弱い横浜高校に成り下がっていくのでは困るということで、必死になって1年やってくれた。今回の準優勝はその賜物だと思います」

 グラウンドでの横浜高校ナインの表情にも、昨年までとは大きな違いがあった。プロを目指すような精鋭が全国から集まる横浜高校は、プレイ中に笑顔を見せるようなチームではなかった。昨今の球児が口にするような、「野球を楽しむ」といったことは絶対に口にしないのが横浜のナインだった。

 ところが今年のチームは、ピンチでもマウンド上の投手が笑顔を絶やさず、チャンスで打席に入った打者にも白い歯が見えた。

 渡辺監督が「ものが違う」と評価し、準決勝の桐光学園戦では同点に追いつく本塁打を放った1年生外野手・増田珠(ますだ・しゅう)が言う。

「今まではクールな感じが横浜高校のイメージだった。今年のチームは、顔を固めてしまうとどうしても声が出なくなって、思いっきりプレイができなくなる。監督さんも『試合を楽しめ』と言ってくださっています」

 主将の相川天河(てんが)も、新しい横浜野球について言及した。

「今年のチームは強くない。どこかを変えないといけなかった。試合だけじゃなく、練習の時から笑顔。笑えば余裕ができる。ピンチの時にニヤニヤするのはダメだけど、笑って力を抜くことも大事だと思っています」

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