ワンランク上の投手へ、いま安樂智大が取り組むべきこと (3ページ目)

  • 田尻賢誉●文 text by Tajiri Masataka
  • 大友良行●写真 photo by Ohtomo Yoshiyuki

 実は、安樂にとって9回は鬼門なのだ。昨秋の四国大会準決勝では鳴門高に4-1とリードしながら4失点でサヨナラ負け。センバツ初戦の広陵戦でも3-0から3失点して延長に持ち込まれている。

「ベンチで『あと3人』と言われると、自分でも意識してしまう。9回は先頭が出たときからヤバいなと思いました。周りからは『7点差だ』と言われたんですけど、『どうしよう』と思ってしまった」

 苦い経験があるがゆえにマイナス思考となり、自分で自分を苦しめてしまう。それが余裕を失わせる要因になっている。三重戦の9回に象徴されるように、現時点では、「困った時はストレート」というのが安樂のスタイル。しかし、いくら140キロ台後半のストレートを投げても、4打席目になれば打者も慣れてくる。それまで3三振に抑えていた宇都宮に打たれたのがいい例だ。やはり、ウイニングショットがストレートだけでは厳しい場面がやってくる。

 2年生として史上最速の157キロを記録するなど、現状でも来秋のドラフトで1位指名されるのは間違いない。だが、甲子園のスターとなった安樂クラスになると、即戦力が期待される。近年、高卒ルーキーながらローテーションに入って活躍した例を見ると、松坂大輔はスライダー、田中将大もスライダー、藤浪晋太郎にはスライダーと見間違う130キロ台中盤のカットボールがあった。150キロの速球だけではない。困った時に、投げ込める一級品の変化球があった。安樂もその1球を身につければ、もうひとつ上のレベルへ行けるはずだ。

 センバツで投じた772球によって球数のことばかり話題になっているが、そのことばかり気にする必要はない。今、安樂が意識すべきことは、球数を減らすことよりもストレートとは別のウイニングショットを磨くことだ。ワンランク上の投手へ――安樂の挑戦はまだまだ続く。

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