桐光学園・松井裕樹、苦しみながら手にした大きすぎる1勝

  • 柳川悠二●文 text by Yanagawa Yuji
  • 小内慎司●写真 photo by Kouchi Shinji

相洋戦で苦しみながらも完投した松井裕樹相洋戦で苦しみながらも完投した松井裕樹 13連勝――。それがこの夏、桐光学園の松井裕樹が唯一の目標に掲げる数字であった。全国屈指の激戦区である神奈川大会の7連勝と、甲子園での6連勝。つまり、全国制覇である。

 春の神奈川大会で準優勝し、関東大会に出場した頃、松井はこの「13連勝」をたびたび口にし、「夏まで1日も無駄にしたくない」と話していた。最後の夏を前に行なった練習試合では、センバツを制した浦和学院をわずか108球で完封、18三振を奪う快投をみせ、順調な仕上がりを披露した。直前の練習では猛暑の中でのピッチングを想定して、グランドコートを着込んで練習するなど、暑さ対策も万全を期していた。ところが――。

 神奈川大会初戦の相手は、1回戦で中央農業に勝利した相洋高校。ストレート中心に力で押そうとした序盤は、球が高めに浮き、制球が定まらない。2点を先制しながら、5回には9番打者に同点に追いつかれる2点タイムリーを喫する。

「見えるぞ、見えるぞ」

 相洋ベンチ内にはそんな声が飛んでいたという。相洋は、昨年夏の4回戦でも桐光学園と対戦しており、4-6(松井は途中から登板)で敗れていた。以後、部室には拡大コピーした松井の写真を貼り、「打倒・松井」の思いを秘めて、この1年を戦ってきた。高橋伸明監督はしばし「お前らと同じ高校生じゃないか」とナインに檄を飛ばし、スライダー対策を重ねてこの日の試合に臨んでいた。

 同点に追いつくまで、スライダーの割合こそ少なかったが、相洋ナインはボールになるスライダーを確実に見極め、甘く入ったストレートを打ち返していた。

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