桐光学園・松井裕樹は最激戦区・神奈川を勝ち抜けるか? (2ページ目)

  • 柳川悠二●文 text by Yanagawa Yuji
  • 小内慎司●写真 photo by Kouchi Shinji

 最後の夏を前に、学校側が松井への個人取材を禁じる厳戒態勢の中、当の本人は万全の仕上がりを見せた。6月29日の報徳学園戦は、6回を投げて15奪三振。7月1日の浦和学院戦は18個の三振を奪い、1安打完封。140キロ台後半のストレートと、打者の手元で鋭く曲がるスライダーに大きなカーブ。さらに、今春から投げ始めたというチェンジアップが面白いように決まった。すべての球種で空振りが奪え、コントロールもいい。観戦した日本ハムの大渕隆スカウトディレクターは、「課題を意識しながら投球し、しっかり抑えている。状態は仕上がっている」と話す。

 昨年の松井は、主にワンバウンドになるスライダーを振らせていたが、勝ち上がるにつれて見極められる場面が増え、多くの球数を要した。ところが今年はストライクゾーンで勝負し、それでいて空振りも奪える。無駄な球をなくし、球数を減らそうという意図がうかがえる。全国屈指の激戦区・神奈川を「投げ抜きたい」と覚悟するぐらいだから、「省エネ」という課題もこの1年持ち続けていたのだろう。

 桐光学園の野呂雅之監督は言う。

「今にして思えば、春のセンバツに出られなかったことが良かったと思います。春先までに体を一から作り直せたのと、新たな球種を覚える時間があった。状態がいいのか、マウンドでもすごく落ち着いています。先日の試合でも、大きくリードした中盤の5回二死ランナーなしで、打者のカウントも2ストライク。その状況でも丁寧にコースに投げ分けようとしていた。リードがあって、ツーアウトで走者もいなかったら、普通は気を抜いてもおかしくない場面ですが、ピンチの時と同じように冷静に相手を抑えた。最近はキャッチャーが構えるミットではなく、相手打者の目を見て、反応を確認しながら投げるようになりました。松井の成長を実感していますが、こういう時ほど慎重に試合に臨まなければいけないと思います。高校野球は何が起こるかわからないので......」

 今年4月に行なわれた春季神奈川大会4回戦で桐光学園に敗れた横浜高校の小倉清一郎コーチは、松井攻略の一端を明かした。

「昨年に比べて捕手の力がやや落ちるため、ワンバウンドになるスライダーを後逸する場面が目立ち、松井くんもストライクゾーンで勝負するようになった。そのため三振の数は減るだろうと予想していたんだけど、チェンジアップを覚えたために、さらに厄介な相手になった。1イニングに3本の安打は期待できない。せいぜい2本がいいところ。得点は奪えても3点だろうね。ウチとしては3-1で勝つ野球をやるしかない」

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