【高校野球】安樂智大の772球。
繰り返してはならない「17年前の悲劇」

  • 田尻賢誉●文 text by Tajiri Masataka
  • 大友良行●写真 photo by Ohtomo Yoshiyuki

「ウチは、ケガに関しては自己申告制なんです。痛いといっても、こちらはどれだけ痛いのかはわからない。例えば、5の痛みを10に言うタイプの選手もいますし、逆に10の痛みを5と言うタイプもいます。もちろん、ケガを隠す選手もいます。毎日接していく中で、見極めてやらないといけないんです」

 おそらく、福井は前者のタイプなのだろう。それに加えて上甲監督がうまく見極めたこともあり、故障することはなかった。だが、愛媛でのびのびと育ち、マジメな性格の安樂。上甲監督によれば、安樂は後者だという。

「安樂は10を5と言うタイプ。だから心配なんです。僕では本音を言わない可能性があるので、ある人を通じて本音を聞き出そうとすることもあります」

 そんな性格を表すように、決勝戦の後、安樂は次のように語っていた。

「『よくやった』と言われても、最後までマウンドを守りたかったので悔しい。3連投でしっかりと投げられない自分の情けなさを感じました。投げ過ぎとか言われますけど、それは関係ない。むしろ、甲子園でいっぱい投げられて嬉しかったです」

 それだけではない。球数を減らすための変化球習得や、最後にへばってしまった下半身の強化を自らの課題として挙げた。この先、目の前で逃した全国制覇のために、安樂はより厳しい練習を自らに課すだろう。投げるスタミナをつけるために、今以上に投げ込みをするかもしれない。上甲監督に「大丈夫か?」と聞かれれば、間違いなく「行けます」と言ってマウンドに上がるだろう。

 だからこそ、上甲監督をはじめとする指導者や周囲の方々のサポートが必要になる。ブレーキを掛けるのは本人の役割だが、もし本人が投げたいと言っても、万全の状態でなければ投げさすべきではない。

 2年生ながら152キロをマークするなど、今大会の安樂を見たスカウト全員が、「今年のドラフトでも1位」と断言した。それどころか、彼らの口から尾崎行雄(元東映)、江川卓(元巨人)、伊良部秀輝(元阪神)らの往年の速球派の名前が飛び出し、そのクラスになる逸材と言い切った。

 将来、日本球界を背負って立つ可能性を秘める安樂。かつての悲劇を繰り返さないためにも、この16歳の逸材を野球界全体で守っていかなくてはいけない。今回の安樂の力投が、そのきっかけになることを祈っている。

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