【高校野球】スピードを捨てた150キロ右腕、
大阪桐蔭・藤浪晋太郎の「進化」

  • 田尻賢誉●文 text by Tajiri Masataka
  • 岡沢克郎●写真 photo by Okazawa Katsuro

 もうひとりの主砲・田村はストレートに強く、変化球への対応もうまい。さらに広角に打つうまさも兼ね備えていたが、この夏はさらなる対応力を身につけてきた。神村学園戦では、140キロ台のストレートが持ち味の柿澤貴裕(神村学園)対策として、始動を早めてセットポジション中に足を上げたが、相手投手のセットの時間が長く、先に足を着いてしまった。だが、そこからノーステップで打ち、レフトスタンドへ放り込んでみせた。

「球が速く見えたので、タイミングを早く取ろうと思ったら足を着いてしまった。フォローを大きくしたらスタンドまでいきました」

 桐光学園戦では好投手・松井に対し、左足を上げた時に上体が突っ込んでいるとみると、次の球でノーステップのすり足打法に変更。内角のストレートを見事に弾き返すタイムリーを放った。

「(次打者の)北條から『後ろ体重で』というジェスチャーがあったので、ノーステップでエンドラン気味に打ちました」

 タイミングが合わない時はフォームを変えて対応できる器用さが、田村の持ち味だ。

 決勝戦前日もふたりは「藤浪はドラフト1位ですよね? 自分は何位かなぁ」と話すなどリラックスし、藤浪との再戦を心待ちにしていた。

 そして迎えた決勝戦。自信を持って臨んだ、3番・田村の第1打席。初球に149キロの速球を見せられると、2球目はカーブ、3球目はスライダー。広いストライクゾーンにも惑わされ見逃し三振。2打席目もスライダー2球で追い込まれ、最後も136キロのボールになるスライダーを振らされた。

「ストレートと思って振ったらスライダーでした。もうちょっと真っすぐ主体で来ると思った。キャッチャーの森(友哉)くんに裏をかかれました」

 4番の北條も第1打席で狂わされてしまった。1、2球目に150キロのストレートを空振りすると、138キロのフォークに手が出ず見逃し三振。第3打席も待っていたストレートを2度ファウルして、最後はスライダーで空振り三振。9回の第4打席はカウント2ボール0ストライクとバッティングカウントからのストレートだったが、結果はセカンドフライ。

「強い気持ちと気迫がボールから伝わってきました。2打席目からは自分の形で振れていたんですけど、真っすぐに押されてしまった。狙っていたのに、とらえきれませんでした」

 新フォームに変え、ストレート対策は万全のはずだった。だが、それでも藤浪の150キロを超えるストレートをとらえきれなかった。197センチ右腕はふたりの想像をはるかに超える進化を遂げていたのだ。

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