【高校野球】4試合68奪三振。桐光学園・松井裕樹はなぜ三振を奪えるのか? (2ページ目)

  • 谷上史朗●文 text by Tanigami Shiro
  • 大友良行●写真 photo by Ohtomo Yoshiyuki

「何がすごいか? それはもう、あの腕の振り。彼のすごさはそこですよ。真っすぐとスライダーを全く同じ振りで投げられるから、ボールゾーンにもあれだけ手が出る。プロでも真っすぐと変化球で腕の振りに差が出て苦労する投手がいるのにね。高校生のバッターで打つのは至難の業です」

 では、対戦したバッターはどう感じたのか。試合前に神奈川県大会での松井の投球を見た今治西打線は「狙っても打てない」と縦のスライダーを捨て、ストレート一本に絞った。練習でも左投手のストレートを打つことに時間を割いた今治西だったが、試合では回転の効いたストレートも、スライダーもとらえきれず22個の三振を奪われた。この試合で3三振を喫した東福拓朗は、「高めのボールと思っていたら、そこから曲がってきてストライク。ストライクと思って振りにいったらボールゾーンに落ちて空振り。見たことのない軌道でした」と振り返った。

 同じく3三振の中内洸太は、「『低めを捨てて高めを狙う』というチームの決めごとができずに相手に勢いをつけさせてしまった。真っすぐも変化球も切れはよかったですけど、一番は真っすぐと変化球でフォームが全く変わらないこと。あれはすごい」と脱帽した。

 22個の三振で、じつに16個が空振りだった。

 その今治西戦の映像も何度もビデオで確認し、練習でも考えつく限りの対策を立てて臨んだ常総学院。バッティングマシンでは左のスライダーの角度を作り、感覚を養った。また、スライダーが曲がる前を叩こうと、打席での立ち位置を投球直前に投手寄りに変える秘策を講じ、試合でも何人かの選手が実践。2安打を放った3番打者の内田靖人もそのひとりだった。

「最後の打席は完全にスライダーを読み切ったので。(松井が)投球モーションに入ったところで、通常のスタンス分、投手寄りに移動して打ちました。ただ、やっぱりストレートも変化球も球のキレは想像以上で、それも同じフォームから投げてくる。そこが他のピッチャーとの決定的な違いです」

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