【高校野球】大阪桐蔭センバツ初V。甲子園を味方につけた藤浪晋太郎の圧巻の投球 (2ページ目)

  • 田尻賢誉●文 text by Tajiri Masataka
  • 岡沢克郎●写真 photo by Okazawa Katsuro

 この試合では、西谷監督は普段より動かなかった。5回まで14人打者に出塁を許す展開ながら、出した伝令は一度だけ。控え投手の沢田圭佑は中盤以降、上着を着たまま投球練習もせず、どれだけ打たれても藤浪を代える気配はなかった。今大会、甲子園にもっとも愛されたのは間違いなく藤浪。その彼を最後までマウンドに立たせる決断をしたことで、自分たちに吹いていた風に乗り、流れに乗ったままゴールを迎えることができた。

 また、藤浪とともに、強烈なインパクトを残したのは5試合で6本塁打を記録した大阪桐蔭の強力打線。1番から9番まで誰もが一発の力を秘め、ひと振りで試合を決める打線は、高校野球のレベルをはるかに超えていた。

 そんな中、見逃せないひとつの四球がある。浦和学院戦の9回一死から4番・小池裕也が選んだ四球だ。1点をリードされて迎えたこの回は先頭の森がライト線に安打を放つも、二塁を狙ってタッチアウト。一死走者なしとなり、敗色濃厚かと思われた。そして小池のカウント3-2。ボール球につい手を出してしまいがちなカウントだったが、ストライクからボールになるチェンジアップをきっちりと見極めて出塁。結果的にこれが逆転のきっかけとなった。小池は言う。

「『追い込まれてから外の変化球を振ったらレベルの低いバッターだ』と西谷監督から言われています。花巻東の大谷と対戦する前に『いいスライダーがあるから』とマシンで外の変化球を見送る練習をしたのがよかった」

 ストライクからボールになる変化球に手を出す打線では甲子園は勝ち抜けない。パワーだけでなく、レベルの高さを示した小池の選球眼だった。

 一方、敗れはしたが2季連続準優勝の光星学院も十分に力を発揮した。特に、昨年から中軸を打つ3番・田村龍弘、4番・北條史也のふたりはプロ注目の前評判にたがわぬ活躍。決勝でも藤浪から田村は二塁打1本を含む3安打、北條はフェンス直撃を含む2本の二塁打を記録し、高校生離れした打撃センスを見せつけた。

「注目されるなかで3、4番が期待に応えられるバッティングができてよかった。プレシャーがあるなかで打つのが本当にいいバッター。藤浪投手から打ったのは自信になります」(田村)

 藤浪から12安打を放った打線は本物だった。東北勢悲願の初優勝はならなかったが、十分に可能性を感じさせる戦いだった。

 大阪桐蔭・藤浪、花巻東・大谷、愛工大名電・濱田――「ビッグ3の中でナンバーワンは誰か?」に注目が集まった今大会。振り返ってみれば、終始、大阪桐蔭に流れがあった。もちろん、そうした流れを作ったのは藤浪のピッチングにほかならない。初戦の花巻東・大谷との大一番を制した時点で、すでに優勝は決まっていたのかもしれない。

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