第三回【ガイナーレ鳥取】元Jリーガー社長が描く未来図
木村元彦●取材・文 text by Kimura Yukihiko松岡健三郎/アフロ●写真 photo by Matsuoka Kenzaburo/AFLO
20万人都市で1万人の観客が入るクラブに成長
――W杯開催のために平松(前)知事が協賛の依頼文書をまきまくった大分と対照的ですね。官との距離は。
「うちはちゃんと距離を置いてますよ。行政よりもまずはスポーツが好きな人っていうところで、時間はかかっていますけど、こつこつやってきてるんじゃないかな。
で、やっぱりさっきの話に戻りますけど、プロサッカークラブでいうと財産は選手なんです。うちに岡野とか服部がいるでしょ。なんで彼らが来たかというと、行き場がなかったっていうのもあるのかもしれないけど、あいつらはいろんな経験してきていて、やっぱり鼻が効くんですよ。鳥取、なんか面白そうだねって。
岡野が最初ですけど、2009年の夏にたまたま会って、どんな奴かと思っていて先入観みたいなものはあったけど、やっぱりサッカー大好き。それはよくわかった。だからコンディションが良くないとか、酒飲んでどうだとかあるのかもしれないけど、絶対間違いなくチームにプラスになると思ったので、来てよって。
1週間後にすぐ来てくれて、バードスタジアムを彼は知ったんです。いいスタジアムでお客さんがいるのを見て『これいいわ、もう決めました95パーセント』。あと5パーセントは何なん?って聞いたら、『一応嫁に言わないと。給料もそんな額払えるはずがないでしょ』って。スポーツが街を変えていく様とか、そういうのがあいつ好きなんですよ。彼はすごい人材です。岡野は社長向きだと思います」
――意外ですね。服部と逆かと。
「と思うでしょ。あいつはね、野人・岡野は正確にいうと、野人の皮を被ったサラブレットです。あいつたぶん、高貴な血が流れていますよ。すごい繊細なやつですよ。すごい気をつかえるし、スポンサー受けなんてめちゃめちゃいいですよ。結構しゃべれるし、とにかく腰が低い。きちんと自分をつくっていて、それがやっぱり結構ストレスになって、で、酒飲んで暴れるんですけど(笑)。そこがまた人間くさいじゃないですか。
だから指導者からするとこいつ何やってるんだってなるんですけど、ものの分かった経営者から見ると、こいつ面白いよねってなるんです。
岡野は人に対して訴える力があるし、やっぱり根がピュアなんですよね。現役やれるところまでやって、社長でもいいから会社残ってくれて、俺と一緒に営業して企業回ったら、絶対お金取ってこれるなって思いますもん。
ハット(服部)は指導者。このふたりはね、うちの若いやつらを見ると腹が立つんですよ。うちの若いやつらはまだまだ人のせいにするわけですよ、自分がうまくいかないことを。腹が立つみたいで、めっちゃしばいてる。相当鍛えられてますよ」
――それがまた勝者のメンタリティにつながる。
「そうですね。今季ホームゲーム17試合やって、16勝1分ですよ。ありえないじゃないですか。試合を見ていると、拾って拾って勝ってるんですよ。そういうところが絶対試合に出てるんだと思うんですよ。
だから、若いやつらに言ってますけど、お前らここで変われなかったら、諦めろと。これ以上選手が伸びるクラブはないよって。地元も応援してくれるし。
だってバードスタジアムで1万人近く入ったときありますけど、鳥取は20万人都市ですからね。20万人都市で、JFLの試合に1万人入るんですよ。平均で3500。それは総数からすると大した数じゃないかもしれないけど、人口割合からしたらどんだけ応援してもらってるんだっていう話です」
――何か地域密着のイベントみたいなものはされていますか?
「“復活公園遊び”っていうのをやってるんですよ。なんてことはない、選手がガキ大将役になって、公園とかに出かけて、鬼ごっこするんです。子どもたちは基本的に体を動かすのが好きなので、サッカーはやらないんです。サッカーをやるとサッカー好きな子だけじゃないですか。でも、鬼ごっこなら女の子も来るし。
公民館とかで、『選手がこの日に来ますと告知だけお願いします。何人でもいいです、来た子だけでいいです』と伝えておくんです。最初にやったときは、僕らがガキ大将で、子どもはふたりでした。子どもは俺がサッカー選手だとか知らないわけですよ。でも体が大きい、かけっこ速い。で、子どもはやっぱりきらきらしてます。
来週も来るからなって言って、次の週の同じ時間に行くと、そのふたりの子がもうひとりずつ呼ぶ。今度は4人でやるじゃないですか。で、わっと盛り上がって、また次の週に行くと8人になっている。で、次の週に行くと16人。
子どもたちが家に帰って『今日ガイナーレのお兄ちゃんと公園で遊んだよ』って親に言うわけです。面白かったって。で、親からすると、『はあ?』みたいな話なんですよ。なんであんたガイナーレの選手と遊んだわけ?って。で、よくわかんないけど、来週試合があるって言ってたから僕見に行く、となる。
親も半信半疑で、ほんとに遊んだのかな?と思いながら、試合会場で「塚野〜!」って子どもが手振るわけですよ。お、来たかって言うと、親がびっくりするわけです。あれ?本当に知ってるわって。
実はこれは2003年からやってるんですけど、いちばん多いときで年間300回くらい、参加した子どもは1万2000人を数えました。だから僕、街中を歩くとね、だいたいの子どもの顔に見覚えがあるんです。それで、子どもが試合見に行くって言ってるから地元のサッカーチームが強いのか、弱いのか、よう知らないけど行くかっていう大人の層が出てきたんです」

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