「不眠との戦い?」 起業の本質に触れてたじろぐ高校野球部の生徒たち (3ページ目)

  • 鈴木雅光●構成 text by Suzuki Masamitsu
  • はまのゆか●絵 illustration by Hamano Yuka

【情熱に人が集まってくる】

 奥野「起業して、その会社を大きくしていくプロセスは、本当に辛く、厳しい、そしてホロウィッツさんが言うように、吐き気を催して不眠に陥るような、とても大変なことなんだけど、そんな経験をしながらも、経営者が平然としているかのように見えるのは、何も感じていないのではなくて、自分自身もとても辛いんだけど、それでもこれを成し遂げたいという情熱を持っているかどうかなんだと思う。

『MBAを取りました』『公認会計士の資格を持っています』『弁護士資格を持っています』と言う人がいるのだけど、この手の知識を持っているから起業家になれるとは限らない。むしろ知識なんか持っていなくても、情熱さえあれば何とかなるのが、起業の世界なんだ。なぜなら、知識を持っている人は、情熱を持っている人のもとに集まってくるからなんだよ。

 逆に言うと、ほとんどの人は、そこまでの情熱を持っていないとも言えるかな。もちろん情熱がゼロというのでは、普通の会社勤めさえもできないと思うんだけど、普通の人の情熱と、起業家の情熱とでは比べものにならない。そして、その情熱にほだされて、有能な人たちが経営者のもとに集まってくるんだ。たとえば本田技研工業を創業した本田宗一郎は情熱に溢れる技術者で、それを財務と販売など企業実務に詳しい藤沢武夫が支えたというのは、有名な話だよね。ソニーだって井深大と盛田昭夫がコンビを組んだからこそ、あそこまで大きな会社になったんだ」

鈴木「先生、『環境が人をつくる』って言うけど、もっといろいろ環境を整えてあげれば、起業家って生まれてくるんじゃないですか?」

奥野「たとえば、幕末に活躍した尊王の志士たちは皆、本当に優秀な人物だったのだろうか。どうして長州藩から、あれだけ大勢の人材が輩出されたのだろうか。ときどき、そんなことを考えることがあるんだ。

 それはおそらく、長州藩の人間がみんな優秀だったというよりも、そういう時代背景のなかで、たまたま吉田松陰のような突出した大人物がいて、その情熱に突き動かされるかのように、久坂玄瑞、高杉晋作、伊藤博文、山縣有朋といった優秀な人材が大勢集まり、お互いに競い合ったからではないかな」

由紀「競い合う?」

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