奇跡の優勝目前。レスター市民に聞いた「レスター快進撃の秘密」

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper  森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

【サイモン・クーパーのフットボール・オンライン】レスターの街の物語(1)

エース、バーディーのゴールに熱狂するレスターファン(photo by Getty Images)エース、バーディーのゴールに熱狂するレスターファン(photo by Getty Images) レスターに住むリアズ・カーンが、まだ10代のフットボールファンだったとき、彼は「カジュアル」になった。「カジュアル」とは1980年代の俗語。そのころ流行していたデザイナーズブランドを着て、フットボールの試合に出かけては「ちょっと暴れてくる」若者たちを意味した。当時、イギリスのフットボールはフーリガンの「全盛期」だった。

 けれどもカーンに言わせれば、「カジュアル」はフーリガンではない。フーリガンは「愚かな悪党」だと、彼は言う。カーンとその仲間たちにとって、フットボールの試合は「最高に楽しかった。平凡で退屈な日常の中で、楽しみにできる唯一のものだった」という。

 とはいえ、カーンはアジア系だ。レスターの「カジュアル」の大半は、当時のイギリスのフットボールファンの大半と同じく、肌が白かった。

「最初は面倒なこともあった」。そう語るカーンは、現在では髪の毛こそないがヒゲはたっぷり蓄えた大柄な50歳の英語教師だ。レスター市内のスロバキア系・アジア系地域にあるカフェ「チャイワラ」でミントティーを飲みながら、カーンは語った。「(アジア系だと)無視されることもあった。ひどいことも言われたよ。『パキ(パキスタン人を指す侮辱語)が、なんでここにいるんだ?』とか」

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