【イングランド】選手年俸推定5位のアーセナルを3位に導いたベンゲル

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki
  • photo by Getty Images

序盤の不振を巻き返しチャンピオンズリーグ圏内に滑り込んだアーセナルのベンゲル監督序盤の不振を巻き返しチャンピオンズリーグ圏内に滑り込んだアーセナルのベンゲル監督【サイモン・クーパーのフットボール・オンライン】2011~2012プレミアの監督たち(後編)

 アーセナルが昨年8月、オールド・トラフォードでマンチェスター・ユナイテッドに2─8というスコアで敗れた後、アーセン・ベンゲルは辞めるべきだという声が響き渡った。そのときもヒステリックな叫びに聞こえたが、今となってはさらにその感が強い。フットボール界を見渡しても、選手年俸に見合う以上の成績を長期にわたってあげているベンゲルのような監督は、本当に数えるほどしかいない。そのうちの誰か(モウリーニョ、ファーガソン、その他ひとりかふたり)が、昨年、アーセナルに来ることはありえなかっただろう。

 だからアーセナルの理事たちは、ベンゲルを解任することなど考えなかった。実際、理事会は何もしなかった。ありがちなことだが、何もしないことが正しい判断だった。ベンゲルは8月末、数人の選手を素早く獲得した。選手年俸では推定でリーグ5位のチームを、ベンゲルは3位に導いた。いつもながらすばらしい業績だ。

 最悪の時期を迎えても、ベンゲルはアーセナルのファンほど心配はしていなかった。彼は選手に対する自分の目を信じていた。ベンゲルはもう昨シーズンから身内の会話のなかで、ローラン・コシールニーとトーマス・フェルメーレンのコンビはリーグ最強のセンターバックになると言っていた。当時は違和感があったが、今なら納得がいく。

 来シーズン、ベンゲルの前には大きな挑戦が待ち受ける。アーセナルがロビン・ファン・ペルシーとの契約を打ち切るかもしれないからだ。オプタ・スポーツの分析によれば、ファン・ペルシーが4月19日までにあげた27ゴールは、アーセナルに22ポイントの勝ち点をもたらしていた。ひとりの選手がチームの勝ち点にこれほど貢献している例は、プレミアリーグではほかにない。

 この夏、ファン・ペルシーはほぼ確実にアーセナルを去るだろう。彼は8月で29歳になるから、何か形になるものがすぐにでも欲しい。マンチェスター・シティ入りもありえるかもしれない。しかしベンゲルのこれまでの成績から考えれば、ファン・ペルシーがいなくなっても、アーセナルはやっていけるだろう。

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