【S・クーパー】アレックス・ファーガソンが監督として成功した理由

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki
  • photo by Getty Images

1月9日、バロンドール発表でプレジデント賞(FIFA会長賞)を受賞したアレックス・ファーガソン監督(左)1月9日、バロンドール発表でプレジデント賞(FIFA会長賞)を受賞したアレックス・ファーガソン監督(左)【サイモン・クーパーのフットボール・オンライン】ファーガソン流マネジメント術(前編)

 リチャード・グリーンバリーはイギリスの小売り大手マークス&スペンサーの経営者だったとき、アレックス・ファーガソンをランチに誘ってマネジメントの秘訣を聞き出そうとした。すばらしい思いつきだ。

 昨年の大みそかに70歳の誕生日を祝ったマンチェスター・ユナイテッドの監督は、フットボール史上最も多くのトロフィーを手にしている。ファーガソンがタイトルを獲得できるのは、ユナイテッドが優秀な選手を買えるためだけではない。ミシガン大学の経済学者ステファン・シマンスキーは、クラブが本来持っている実力以上の成績をあげた監督を見極めるため、「サッカーノミクス・インデックス(サッカー経済学指標)」をつくり出した。イングランドで1974年以降に指揮をとった監督たちが、クラブの選手年俸総額に対してどれだけの成績をあげたかを示すものだ。この指標によるとファーガソンは、リバプールを率いたボブ・ペイズリーに次いで第2位だ。

 ファーガソンはクラブに大きな価値をもたらしている。しかも彼は、その役割を永遠に果たすことができそうだ。

 それはファーガソンがフットボールをよく理解しているためではない。「ファーガソンは天才ではない」と、彼の伝記を書いたパトリック・バークレイは書いている。選手の才能を見抜く目はブライアン・クラフのほうが上だった。戦術ならジョゼ・モウリーニョのほうが上だ。ユナイテッドのGKだったピーター・シュマイケルは言う。「フットボールのコーチとしてもっと優秀な人間ならいくらでもいる。でもマネジメントや人の扱い方で、彼の右に出る者はいない」

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