宇野昌磨はコーチ不在でも孤独じゃない。リンクの熱気を力に変える

  • 小宮良之●取材・文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

『ジャパンオープン2019』の前日、公式練習だった。宇野昌磨(21歳、トヨタ自動車)は6人のスケーターの中で、おそらく誰よりも転倒していた。しかし失敗しても、果敢に挑み続ける。そして最後は成功させていた。

ジャパンオープンに出場した宇野昌磨ジャパンオープンに出場した宇野昌磨 リンク脇に戻ると、黒い手袋を脱いで一つ息を吐いた。黒いテープを手にとって、黒いスケート靴に巻き付ける。血が全身を駆け巡っているのか、白い頬は赤く染まっていた。

「徐々に調子を上げていく。今できることをやりたい」

 公式練習後の取材、そう語る宇野は目の表面がやや緊張していた。今シーズンはコーチ不在。その不安に焦点が行くことに、本人はもどかしさがあるのか。後ろに組んだ右手の親指を、左手で強く握っていた。

「はたから見ると、"環境が変わった"と考える人も多いと思います。でも正直、あまり変わっていません。(昨シーズンまで)コーチはいましたが、自分の思いをくみ取ってもらっていたので、練習時間や内容も自分で考えていましたから」

 彼はそう言って、少し早口になって続けた。

「(現在は)調子が良いとは言えないです。でも、落ちているというよりも、(ジャパンオープンには)間に合わなかった、というのが正しい感じで。振り付けてからジャンプを入れると難しく、まだ滑り込みが足りない。今後は良くなっていくんじゃないかと」

 宇野は、世界王者になるための道を模索しているのだろう。2018年の平昌五輪では、惜しくも2位だった。昨シーズンはグランプリファイナルで2年連続の2位、全日本選手権では3連覇達成も、世界選手権は2年連続2位だったにもかかわらず、4位に順位を落とした。

「自分の年齢で言うのもなんですが、残りのスケート人生、楽しく滑りたい」

 そう語る21歳の真意は――。

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