赤井沙希のプロレスデビューに、父・英和は「楽しんで」。母は「親子の縁を切る」と猛反対した

  • 尾崎ムギ子●文 text by Ozaki Mugiko

■『今こそ女子プロレス!』vol.2
赤井沙希 前編

 今年5月4日、DDTプロレスリング・後楽園ホール大会。赤井沙希はクリス・ブルックスが持つDDT EXTREME級王座に挑戦した。男子と女子の真っ向勝負。パワーでは、赤井はクリスに到底敵わない。あの"女子プロレス界の横綱"里村明衣子ですら、かつて男色ディーノに力では負けていたほどだ。

今年5月、クリス・ブルックス(左)と対戦した赤井沙希(右) 写真/DDTプロレスリング今年5月、クリス・ブルックス(左)と対戦した赤井沙希(右) 写真/DDTプロレスリングこの記事に関連する写真を見る 男子と女子の闘いでは、女子に圧倒的なディスアドバンテージがある。しかし、解説の三田佐代子は言った。「私たちが普段感じている悔しさみたいなものを、きっと彼女たちが晴らしてくれると思う」――。

 大学入試で、女子学生の得点が操作される。社会に出て、能力があっても女というだけで出世できない。育児休暇を取ると言ったら冷ややかな目で見られる......。そういった女性が男社会で生きていく上で感じる悔しさを、男子レスラーに挑む女子レスラーは晴らしてくれるのではないか。

 試合序盤から、赤井はクリスに果敢に挑む。リストを掴み、顔面蹴り。コルバタからのアームホイップ。しかしクリスが赤井を場外に投げると、赤井の呼吸が乱れる。得意の蹴りを繰り出すも、ことごとくブロックされる。クリスは容赦なく赤井を蹴り、殴り、踏みつける。それでも赤井は、自身が持つ技のすべてをクリスにぶつける。何度も倒されてなお、立ち向かう――。結果は17分38秒、プレイングマンティスボムからの片エビ固めで、クリスが勝利した。

 男子プロレス団体・DDTに所属する、唯一の女子レスラー。赤井沙希はどのような思いで、プロレスと向き合っているのだろうか。

***

 1987年1月24日、赤井は大阪で産声を上げた。父親は、元プロボクサーの赤井英和。2、3歳の時に両親が離婚し、沙希は母に引き取られた。以降、芸能界デビューするまで英和と会うことはなかった。

 テレビで活躍する英和を指さし、母は「この人があなたのお父さんよ」と言った。これが私のお父さん。しかし、この人は私が娘だということを知っているのだろうか......。赤ん坊の自分を抱きかかえる父の写真を見ても、それが父親だという実感は湧かなかった。

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