【大相撲】旭天鵬、引退。偉大な横綱たちを裏で育てた「先駆者」

  • 武田葉月●文 text&photo by Takeda Hazuki

 目標としていた幕内在位100場所には、あとひと場所、届かなかった――。モンゴル力士の先駆者であり、「角界のレジェンド」とも称された旭天鵬(40歳)が、先の大相撲名古屋場所(7月場所)を最後に現役生活の幕を閉じた。

7月場所後、晴れやかな表情で現役引退を表明した旭天鵬。7月場所後、晴れやかな表情で現役引退を表明した旭天鵬。 名古屋場所では当初、新大関の照ノ富士に注目が集まっていた。しかし、場所の途中から、旭天鵬の動向が注視されるようになった。前頭11枚目で臨んだ同場所、かねてから「幕内から落ちたら、現役を引退する」と語っていた旭天鵬は、初日から4連敗を喫するなど負けが先行し、その現実味が増してきたからだ。

 そして迎えた千秋楽、旭天鵬は栃ノ心に敗れて3勝12敗と大きく負け越し。続く秋場所(9月場所)での十両への陥落は決定的となった。ただその日は、旭天鵬は最後まで「引退」のふた文字を口にすることなく、通算35回目の優勝を飾った横綱・白鵬の優勝パレードの旗手を務めた。

 大役を終えると、旭天鵬は所属する友綱部屋の千秋楽打ち上げパーティーが行なわれている会場に向かった。会場には、サプライズで名古屋入りしていた、夫人と3人の子どもたちが待っていた。その姿をとらえた旭天鵬は、すかさず駆け寄っていって、子どもたちを抱きしめた。その瞬間、ずっとこらえていた涙が、ドッとあふれ出した。

「涙って、これほど止まらないものだとは思っていなかったよ(笑)」

 あふれる涙を拭いながら、旭天鵬は柔和な笑みを見せた。自らの中では「引退」という決断を下し、さまざまな重圧が解けてホッとしたような、それでいてやり切った感のある、優しくさっぱりとした表情だった。

1 / 5

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る