【髙橋大輔の軌跡】「精一杯やった」。ソチで見せた最後の舞い

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi photo by Noto Sunao/JMPA

12月特集 アスリート、現役続行と引退の波間 (16)
スケーター・髙橋大輔の軌跡 part4

 引退を発表したフィギュアスケーター・髙橋大輔。その足跡を辿る──。
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「これが最後のビートルズメドレーです」

 2014年7月、新潟市で開催された「ファンタジーオンアイス」の最終公演で、アナウンスが会場内に響いた。この日の髙橋大輔のプログラムは、2月のソチ五輪のフリーでも披露した『ビートルズメドレー』のショートカットバージョンだった。

 しなやかで流れるような滑りに続いて、連続でジャンプを跳ぶ予定だったが、そのジャンプでミスが出た。公演終了後、髙橋のマネージャーが「しっかり落ち込んでいますよ」と笑いながら話す。

ソチ五輪は総合6位に終わった髙橋大輔ソチ五輪は総合6位に終わった髙橋大輔 それでも、その演技はソチでの感動的なフリーを思い起こさせる見事な滑りだった。

 3度目の五輪となった2014年2月のソチ五輪に、髙橋は満身創痍で臨んだ。2013年11月末の練習で発生した右脛の骨挫傷は年が明けても完治せず、本番が近づいても調子は上がってこなかったのだ。精神的に追い込まれ、空回りした時期もあった。

「今の自分をすべて受け入れて、やれることをやるだけ。メダルをあきらめたくはない」

 そう考えて乗り込んだソチだったが、冷静に見れば、メダル獲得は厳しい状態だった。ショートプログラム(SP)では4位につけたものの、表彰台は遠かった。フリーでは奇跡を祈る思いで跳んだ冒頭の4回転トーループがダウングレードに終わり、願いは叶わなかった。


 ソチ五輪の4年前の2010年、髙橋は2月のバンクーバー五輪で銅メダルを獲得、続く世界選手権で頂点に立った。そのことで次の目標を見失いそうになりながらも、髙橋は現役続行を決めた。

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