【月刊・白鵬】横綱が涙した、ソチ五輪の「名シーン」

  • 武田葉月●構成 text&photo by Takeda Hazuki

 その頃、そうした自分を分析することはできませんでしたが、その後、横綱に昇進し、優勝争いを数多くこなして、何度も優勝を重ねるうちに、「ここ一番」で勝てなかった原因が"若さ"であると気づいたのです。

 若いから勢いがある。相撲にも勝てる。ゆえに、自分にも自信がある。けれども、そこに落とし穴があるんです。過度に自信を持ち過ぎれば、足もとをすくわれますし、ほんの少しでも自信が揺らぐと、経験がない分自滅してしまいます。

 髙梨選手が、私の若い頃と一緒だったとは言いませんが、彼女も周囲の期待とともに、自ら「結果を出さなければいけない」というプレッシャーをかなり抱え込んでしまったように見えました。それは、17歳の少女が抱えられるプレッシャーの量を、はるかに超えていたのではないでしょうか。

 ともあれ、私は彼女の戦いぶりは本当に素晴らしかったと思います。髙梨選手本人は不満かもしれませんが、想像もできないような重圧を背負いながら、よく奮闘していました。また、五輪という大舞台を経験したことは、今後の彼女にとって、必ず糧になるはずです。近い将来、今度は最高の笑顔を彼女が見せてくれることを期待したいと思います。

 髙梨選手同様、フィギュアスケートの浅田選手も、日本中の人々から金メダルを期待されていました。メディアでも大きく騒がれて、正直、私は「真央ちゃん、大丈夫かな?」と心配していました。彼女にかかるプレッシャーもまた、20代前半の女の子が抱えるには大き過ぎると思ったからです。

 それでも、浅田選手はすごかったですね。結果的には6位という成績に終わりましたが、フリーの演技は本当に素晴らしかったです。誰しもの記憶に残る、圧巻の滑りでした。五輪には、メダルの色や数では推し量れない"感動がある"ということを、改めて浅田選手に教えられたような気がします。

 若い選手の活躍の一方で、ベテランの強みを見せてくれたのが、41歳で銀メダルを獲得したジャンプの葛西紀明選手でした。その雄姿には、本当に心を打たれました。

 五輪出場は7回目だそうで、1998年長野五輪のときは、団体戦のメンバーから漏れるなど、悔しい思いをしたこともたくさんあったと聞いています。にもかかわらず、決して諦めることなく、41歳まで現役を続けてこられた。それだけでも頭が下がりますが、銀メダルという輝かしい結果まで残すとは......。「すごい」のひと言しかありません。

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