【ノルディック複合】プレッシャーを「銀」に変えた渡部暁斗の心・技・体

  • 折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi photo by JMPA

「何か持ってるんですかね」

 2月12日、ルスキエゴルキセンターで行なわれたノルディック複合ノーマルヒル個人のジャンプで2位につけた渡部暁斗は、微笑みながらこう語った。試合前の試技は97.5メートル。距離点とウインドファクターを合わせた得点は11位にとどまっていた。しかし、ソチ入り後の渡部のジャンプは悪くなかった。助走姿勢での尻の位置を1~2センチ修正するなど、ほんの細かなポイントを意識すれば良いだけの状態まで仕上がっていた。

ノルディック複合で20年ぶりにメダルを獲得した渡部暁斗ノルディック複合で20年ぶりにメダルを獲得した渡部暁斗「試技のジャンプにしても、助走の滑りがしっくりいってなかっただけです。そこをしっかり修正したら自然にうまく飛べたので、空中姿勢と着地には自信があるから、『これはもらったな!』という感じでしたね。(本番は)ソチに来て一番いいジャンプだったと思います」

 追い風という不利な条件ながら100.5メートルを飛んで、飛型点も3人が19点(20点満点)を出す大ジャンプ。それまでトップだったエフゲニー・クリモフ(ロシア)との飛距離をタイム差に換算すると21秒突き放し、ライバルのひとりである昨季世界選手権3冠のジェイソン・ラミーシャプイ(フランス)には25秒差をつけたのだ。

 最後に飛んだ昨季W杯総合1位のエリック・フレンツェル(ドイツ)には103メートルを飛ばれたものの、向かい風だったために得点差は1.5点。後半の距離(10キロ)はフレンツェルと6秒差でスタートと、メダル獲得の可能性を大きくした。「何か持ってるかも」という言葉は、本番で会心のジャンプを出せたことを示しているのだ。

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