さようなら、そしてありがとう。2013年に引退したアスリートたち

  • 石塚隆●文 text by Ishizuka Takashi photo by AFLO

 去り際には、人それぞれ人生の色がある。余力を残し笑顔で去る者、ボロボロになり朽ち果てる者、そして身を引く決断ができずさまよう者----。長きに渡って自分を育ててくれた競技への思いを胸に、今年も多くのアスリートたちが第一線を退いていった。

体操女子の田中理恵はロンドン五輪から1年以上経ってから引退を表明した体操女子の田中理恵はロンドン五輪から1年以上経ってから引退を表明した プロ野球界は宮本慎也(43歳/ヤクルト)、前田智徳(42歳/広島)、山﨑武司(45歳/中日)らビッグネームが相次ぎ引退し、メディアを騒がせたが、その影で嶋重宣(37歳/西武)や小野晋吾(38歳/ロッテ)ら、「いぶし銀」たちも現役を退いている。広島時代の2004年に首位打者となり、『赤ゴジラ』の愛称で親しまれた嶋は、「チームの戦力になれないならユニフォームを脱ぐしかない」と語り、2000年の日曜日ごとに9連勝して『サンデー晋吾』と呼ばれファンから愛された小野は、「戦力になれないことと肉体的な苦労を考え決意した」という言葉を残している。

 肉体的にも、精神的にも、競技者としての限界を悟り、自ら決断する。現役を退く喪失感はあるものの、現状を受け入れることができたアスリートは、まだ幸せなのかもしれない。

 かつて、トルシエジャパンの要として活躍した元サッカー日本代表の服部年宏(40歳/岐阜)は、「相手からボールを奪えなくなった」と、自分の武器が通用しなくなったことで限界を知り、長い現役生活を終えた。同じく元日本代表で、1998年フランスW杯メンバーだった斉藤俊秀(40歳)も今年、現役引退を表明している。斉藤は2009年から社会人リーグ・藤枝MYFCの監督兼選手として活躍。JFL昇格(来季からJ3参入)に貢献し、「もう未練はない」と自分の役割が終わったことを自覚してピッチを去った。また、2002年の日韓W杯で活躍し、トサカ頭がトレードマークだった元サッカー日本代表の戸田和幸(36歳)も、選手生活にピリオドを打った。J1清水をはじめトッテナムやKリーグ、J2を渡り歩き、最後はシンガポールリーグのウォリアーズでプレイ。戸田は「やり切ったわけでも、満足できたわけでもないが、終わらせるタイミングだと自然と思えるようになった」と、プロ生活18年間を総括した。

 記憶に新しいところでは、体操女子の田中理恵(26歳)がロンドン五輪後、1年以上経った12月19日に会見を開いて引退を表明した。「日に日に気持ちが遠のいていくことに気づいた」と田中は会見で語り、モチベーションの低下を告白したが、彼女のように、アスリートにとって重要な五輪という節目を越えても引退せず、その後、肉体や気持ちを保てず現役続行を断念するパターンも少なくない。

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