キム・ヨナに勝つために。浅田真央が心に刻んだ決意 (2ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • 能登直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

「今日のSPは四大陸のような演技をすることを目標にしていましたが、それができなかったのは残念。カナダへ来てからあの時のようなトリプルアクセルが跳べないので、少し不安になっていました。でも、本番ではまずまずのアクセルが跳べたので、いい流れに乗れれば......」

 こう話していた浅田は、自分の順位を確認して「ここ2年間くらいは世界大会でずっと6番くらい。こんな風に(また6位に)なってしまったら意味がないかな。今までやってきたのは何だったんだろう」と考えたという。だが「まだ終わっていない」と思い直した。

 一方、SPで14番目の演技者だったキム・ヨナ(韓国)は、「久しぶりの大きな試合で心配はあったから、これまで競技を続けてきたトップ選手と同じ組だったらすごく緊張していたと思う。でも前半のグループだったので気持ち的には楽だった」と、余裕のある演技。結果は3回転フリップのエッジミスこそあったが、それ以外はノーミスで69・97点を獲得して1位。2位となった前回の女王・カロリーナ・コストナー(イタリア)に3・09点差をつけ、浅田との差は8・87点という大差になった。

 それでも、浅田が挽回する可能性は十分あると思えた。浅田のトリプルアクセルは復活していた。さらに1回転となった3回転ループは単なる凡ミスで、再度ミスをするとは考えにくい。3回転フリップの回転不足も合わせて、すべて成功していれば、SPはキム・ヨナと同程度の得点を獲得していたはずだったからだ。

 さらに、この大会が3年ぶりの世界大会となるキム・ヨナの演技は、ミスこそなかったがやや硬いようにも見えた。2分30秒のSPの演技からは、観ている者すべてを自分の世界に引きずり込むような、かつての濃密さを感じることはなかった。

 フリー当日、浅田は公式練習で、最初こそ成功しなかったトリプルアクセルを、曲をかけた練習ではきれいに決めた。そしてその後の3回転+3回転をはじめ、予定しているジャンプをすべて、余裕を持って決めていった。いい感触をつかんだ浅田は、早々にジャンプ練習を終えてスピンの練習を入念に繰り返していたほどだ。

 試合直前の6分間練習でも、見ているこちらが、浅田は巻き返せると思うほど好調だった。他のジャンプの後に跳んだトリプルアクセルは、1回でクリーンに決まったからだ。

 だが本番になると、全体のスピードが若干落ちていた。結局、最初に持ってきたトリプルアクセルは、回転数こその認められたが、両足着地となってGOEで大きく減点。練習では軽快に決めていた3回転フリップ+3回転ループも、「ちょっと回転が速すぎたのか、ループを跳ぼうとした時には体が回ってしまっていた」と単発ジャンプになってしまった。

 逆転しようという気持ちが力みにつながったのか......。それでも、浅田は終盤にはなんとかスピードを取り戻し、観客席を大きく沸かせるステップで演技を締めた。得点は、フリーで2位となる134・37点で、合計は196・47点。先に滑ったコストナーに1・42点だけ及ばず、優勝の夢は途絶えた。

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