別次元の戦い。羽生結弦と髙橋大輔が生み出す頂点への推進力 (3ページ目)

  • 折山淑美●文・取材 text by Oriyama Toshimi
  • 能登直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

 こう話す羽生は、今季をソチ五輪へ向けてまず自分のプログラムを作り上げるためのシーズンととらえている。その中で「体力的にはまだ足りないと感じている」と言うように、SPでは完璧な演技を作り上げているのに比べ、演技時間が長いフリーは、各要素をこなすのが精一杯という状態で、完成度はまだ低い。だがNHK杯よりGPファイナル、そしてファイナルより全日本選手権と、短期間のうちに着実に進歩していることも確かだ。

 さらなる進化の途上にある羽生は、全日本初制覇に奢ることなく次のステージへ視線を向けている。

「ここ最近は(ブライアン・)オーサーコーチにもしっかり見てもらっていないので、カナダに帰ってしっかり話し合いながら練習をしたい。コーチには『全日本はもちろん狙うが、今シーズンで一番調子を上げなければいけないのは世界選手権だ』と言われているから」
 
 さらに今季の成長の要因も、「オーサーコーチは試合までのペース配分がものすごくうまい。練習でそれぞれの要素をやる回数も決め、『これはそれ以上やると悪くなるから、次の要素の練習にしよう』と自分をコントロールしてくれる。それで効率も上がっているし、力もついているのだと思う」と話し、この後の成長にも自信を持っている。

「芸術要素点も今回は高い評価をしてもらえましたが、自分としてはまだまだだと思っていますし、その評価に匹敵するスケーティングや表現力まではいっていないと思う。その点数を、しっかりと自分の力で出せるようにしていきたいと思う」

 こう話す羽生に対し髙橋は、「完璧ではなかったが、フリーで4回転を2回成功したのはケガをした後では初めて。ここを僕のスタート地点にして、どんな状況でも(4回転を)入れられるようにしなければいけないというモチベーションが上がってきました」と、羽生の台頭を自らの刺激にしている。

 さらに髙橋が「この後は他のトップ選手と同じように、トーループだけではなく2種類の4回転ジャンプを入れられるようにしたい」と話すと、羽生はそれを聞いて「じゃあ、僕は3種類跳べるようにしたい」と対抗心をあらわにする。

 全日本選手権でも、世界トップレベルといえる別次元の戦いを繰り広げ、切磋琢磨を続けるふたり。その中でも今季の羽生の急激な進化は、世界の頂点を究めようとする日本男子にとって強力な推進力になっている。

 互いを高め合うふたりが生み出すエネルギーが、どんな形で実を結ぶのか。2013年3月の世界選手権でその成果を見ることができそうだ。

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