【大相撲】横綱・日馬富士。「最軽量」力士に飛躍をもたらした3つの転機

  • 武田葉月●文 text&photo by Takeda Hazuki

2場所連続優勝を飾った日馬富士が優勝杯を手にして朝青龍(写真左)や家族とともに喜びを分かち合う。2場所連続優勝を飾った日馬富士が優勝杯を手にして朝青龍(写真左)や家族とともに喜びを分かち合う。「横綱を自覚して、全身全霊で相撲道に精進します」

 日馬富士は、所属する伊勢ヶ濱部屋に横綱昇進を告げにきた使者に対して、ハッキリとした口調でそう答えた。第70代横綱、日馬富士公平が正式に誕生したのだ。

 名古屋場所(7月場所)の全勝優勝を経て、綱取りの場所となった先の秋場所(9月場所)。日馬富士にとっては、まさに"全身全霊"の戦いだった。

 初日の碧山戦から、一気に12連勝を飾った日馬富士。破竹の勢いで白星を重ねて迎えた13日目、相手は大関・稀勢の里だった。そこまで、横綱・白鵬は1敗を喫しており、稀勢の里は2敗。この一番で稀勢の里を下せば、日馬富士は13勝となり、優勝争いは白鵬との一騎打ちとなる。横綱審議委員会から突きつけられている横綱昇進へのハードルは、13勝以上の勝ち星と、優勝かそれに準ずる成績。この一番に賭ける日馬富士の思いは特別だった。

 また、日馬富士は場所前から「打倒・稀勢の里」を掲げていた。要所で苦杯を舐めてきた"難敵"突破が綱取りの最大のポイントと踏んで、連日稀勢の里の所属する鳴戸部屋に出稽古に繰り出し、稀勢の里との稽古でたっぷりと汗を流して秋場所に臨んだ。負けるわけにはいかない相手だった。

 立ち合い、日馬富士は稀勢の里が得意とするおっつけで土俵際まで追い込まれた。だが、稀勢の里の脇の甘さをついて、2本差しに成功。そのまま寄り切って勝利し、横綱昇進をほぼ手中に収めた。勢いは止まらず、千秋楽では1敗の白鵬との結びの一番を見事に制した。白鵬が勝てば、優勝決定戦に持ち込まれる状況で、互いに負けられない死闘は1分47秒におよんだが、最後は日馬富士が豪快な下手投げを決めた。

 2場所連続の全勝優勝を果たし、白鵬とともに土俵に倒れ込んだ日馬富士は、土俵への感謝の意味を込めて、土俵に額を付けた。表彰式を終えると、支度部屋で待っていたのは、"兄"と慕う元横綱・朝青龍だった。この日、升(ます)席から日馬富士の相撲を見守った朝青龍は感激が冷めやらず、"愛弟子"を何度も抱きしめていた。

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