大坂なおみが連勝で世界1位を維持。「不可避」要素をプラスに変えた (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 2回戦の対戦相手のドミニカ・チブルコバ(スロバキア)は、高く弾むスピンや低く滑るスライス、そしてネット際に沈めるドロップショットなどを操り、イレギュラーの多い赤土の特性を武器に変えるクレー巧者だ。両者は1週間前のマドリード大会でも戦ったばかりで、その時にも大坂は相手の緩いボールに苦しめられた。

 今回の対戦でも、大坂はチブルコバの多様性に揺さぶられる。立ち上がりでブレークを許し、打ち合いで支配しながらもミスでポイントを落とす場面が幾度かあった。

 その大坂を、最終的に6−3、6−3のスピード勝利に導いたのは、12本のエースを叩き出したサーブ。そして彼女は、数時間後に始まる3回戦に向け、「調子のよかったサーブを、次の試合にも持ち込もう」と、ここでも明るい側面に目を向ける。食事を済まし、身体を休め、短めのウォームアップをこなしながら、彼女は「ツアーレベルでは初めて」という一日の2試合目に備えた。

 チブルコバ戦を終えた約6時間後に始まったミハエラ・ブザルネスク(ルーマニア)戦でも、大坂は盤石のパフォーマンスを発揮する。1試合目の戦闘モードを途切れさせまいとするように、冷徹とも言えるほどに落ち着いた表情のまま、次々と鋭いサーブを打ち込んだ。

 第1セットでは、ファーストサーブが入った時のポイント獲得率は、実に100%を記録する。ストローク戦でも、サウスポーから打ち込まれる相手の攻撃的なショットに余裕をもって追いつくと、無理なく深いボールを打ち返し、気まぐれな赤土のコートを支配した。

 試合終盤では、スマッシュをフェイントにドロップボレーを打つ余裕のプレーも披露。歓声と西日を浴びながら、大会第1シードはベスト8に悠然と歩みを進めた。

 自分では変えようのないものを受け入れ、勝ち進んだその先で大坂が手にしたのは、今大会終了時の世界1位のポジションである。それは「フレンチオープンで第1シードになりたい」と公言し、時にはそのプレッシャーにも直面してきた彼女が、自らの手で掴み取ったひとつの夢だ。

「これで、ここから先は1試合ずつに集中していける」

 あらゆる「不可避」を乗り越えた若き女王が、頂点へと焦点を定める。

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