【テニス】クルム伊達公子、東レPPOで見せた現役のエネルギー (2ページ目)

  • 辛仁夏●文text by Synn Yinha
  • photo by Ko Hitoshi

 昨今のパワーテニス全盛の女子テニス界にとって、テクニックとゲームの組み立てに長(た)けている伊達のテニスは、貴重な存在と言えるだろう。そればかりか、1996年に引退する前よりも、11年半のブランクを経て復帰した今のほうが、明らかにプレイの幅は広がっている。そう感じさせるプレイが随所に見られた。

 そのストーサー戦。劣勢な展開やサーブの失敗などに、観客から発せられたため息に対して「もうため息ばっかり」と叫んで、伊達は怒りをぶつけた。「ため息はポジティブな反応ではないし、エネルギーを吸い取られる」と嘆く。負けん気も十分に健在。その姿はまぎれもなく現役プレイヤーのものだった。

 そんな伊達を見て、彼女を戦いにかりたてているものが何なのかを知りたくなった。かつて伊達は現役復帰の理由を「若手選手にもっと強くなって欲しい、どんどん強くなって欲しいと思ったから」と語っていた。低迷していた日本の若手に刺激を与えて奮起させるためだった。しかし、その刺激はかなり強烈で、逆に萎縮してしまった感も無きにしもあらず、だ。実際、伊達の活躍ばかりが目立ち、メディアに取り上げられるのは彼女ばかりと言ってもいい。なかなか伊達に引導を渡す若手選手が現れないのが現状だ。

 クルム伊達公子は今、何のためにどんな気持ちで戦い続けるのか。彼女の答えは、大会に勝つことでも、ランキングを上げることでもなかった。「ランキングは単に大会出場の目安にしかならない」と素っ気ない。「今さらトップ10を目指すわけではないし、目指せるわけでもない」とも言う。

 では、シーズンの目標に掲げているのは何なのか。「ケガをしないこと」というのが答えだった。「今季も元気に何の不安もなくコートを走れることだけを考えてやっている。動ける身体があれば自分が目指すテニスもでき、それでいいプレイをして試合に勝てば楽しめるし、モチベーションも出てくるから」と、彼女は言う。再チャレンジしてから古傷の右アキレス腱を痛め、苦しい戦いを強いられたという切実な思いを抱えているからでもあるだろう。だがそれは裏返せば、ケガさえなければ気持ちにも身体にも再チャレンジを続けるエネルギーがある、ということだ。

 記者会見で2020年の東京オリンピックに出場したいかと問われた伊達は、一瞬絶句して、苦笑いを浮かべながら、「50歳ですよ、50歳! どんなに(出たいと)思っても無理でしょう。1パーセントもないでしょうね。ナブラチロワでもないですよ。選手として関わる可能性は限りなくない。99.99パーセント、100パーセントに近い」と、キッパリと答えていた。

 しばらくはコートを元気に走り回る彼女の姿が見られるはずだ。


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