錦織圭の勝機は「スライス」にあり。
初のベスト8をかけチリッチ戦へ

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki  photo by AFLO

「なかなか男としては、つらい判断でした」

 先月の全仏オープン2回戦で錦織圭がそう語った試合の相手こそが、今回のウインブルドン3回戦で相対したアンドレイ・クズネツォフ(ロシア)である。「つらい判断」の内実は、相手の強打と真っ向勝負で打ち合うのではなく、高く弾む山なりのボールや、ドロップショットなどの緩いボールを混ぜたこと。上記の発言は多少のリップサービスを含むものではあるが、"攻めのテニス"を「自分らしさ」と定義する彼にとって、深層の部分では本音でもあったはずだ。

スピンやスライスを多く使って4回戦進出を果たした錦織圭スピンやスライスを多く使って4回戦進出を果たした錦織圭 しかし今回の再戦では、錦織には、男の意地にこだわっている余裕などなかったろう。

「試合中は、自分の痛みと戦うときのほうが多かった。痛みとともに今週はやらなくてはいけない」

 大会前に痛めた左脇腹の状態は、この本人の言葉でも明らかなように、万全ではない。身体の状態と相談し、「早く試合を終わらせたいとも思っている」現状が、勝利のためにもっとも効率的な戦法を、錦織に選び取らせたのだろう。

「かなりスピンが(相手に)利いていたので、なるべく意識して打っていた。また、スライスもいつもより多く使った。スライスの感覚が今日はよかったので、かなりいいディフェンスもできたし、うまく混ぜられた」

 全仏の赤土で効果的だったスピンに加え、今回の対戦では、芝の上を滑るスライスも多用した。一定のリズムで打ち合うことのない錦織の"チェンジ・オブ・ペース"に強風も重なって、クズネツォフの強打の律動は、試合が進むにつれて乱れていく。この日のクズネツォフのアンフォーストエラー(自ら犯したミス)は37本を数えたが、それらは、錦織の巧みな配球によって誘発されたものでもあった。

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