マルチナ・ヒンギス、35歳。20年前に歴史を変えた地、全英へ帰還す

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki  photo by AFLO

 20年前――。雨による順延の影響で、異例の月曜日に行なわれた1996年ウインブルドン女子ダブルスの決勝戦は、ひとつの金字塔が打ち立てられた日でもあった。

試合中も無邪気な笑顔で見せるマルチナ・ヒンギス試合中も無邪気な笑顔で見せるマルチナ・ヒンギス 31歳のベテラン選手ヘレナ・スコバ(チェコ)と組み、英国が誇る伝統のセンターコートに立ったスイス人の少女は、柔らかい栗毛を揺らしながら軽やかに芝の上を駆け、相手の意表を突くボレーやロブなど多彩なショットを操りながら、試合を勝利へと導いた。当時15歳(正確には15歳と282日)の少女はこの瞬間、1887年にシャーロット・ドッド(イギリス)が樹立した記録を3日間短縮し、グランドスラム史上最年少の優勝者となる。

「この記録は、とても欲しいもののひとつだった。だって私がまだ手にしていない、数少ない"最年少記録"のひとつだもの」。

「天才少女」の名を欲しいままにしたマルチナ・ヒンギスが、その証(あかし)を鮮やかに歴史に刻んだ瞬間――。チェコスロバキアに生まれ、移住地のスイスで母親の英才教育を受けて育った15歳は、天真爛漫な笑顔を振りまいた。

 そのウインブルドンから時は流れ、世紀が変わり、「ひと昔」と呼ばれる年月を2つ重ねた今日もまだ、ヒンギスが打ち立てた記録は破られていない。そして35歳になった今、マルチナ・ヒンギスはふたたび女子ダブルス界を無邪気に支配する女王となっている。

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