マスターズ準決勝。錦織圭は「2年前の忘れ物」を取りに戻る

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki   photo by Getty Images

 激闘の跡は、試合後の会見室に現れた彼の相貌(そうぼう)に、くっきり刻み込まれていた。

 表情が......ということではない。顔全体が紅潮し、特に鼻の頭やほほなどは、火傷のように赤く火照っている。気温は30度に達し、湿度も64%まで高まる酷暑のマイアミで錦織圭が演じた、ガエル・モンフィス(フランス)との2時間29分――4-6、6-3、7-6のスコアの熱戦。しかも、第3セットでは先にブレークしながら終盤で追いつかれ、5本のマッチポイントを握られるもすべてしのいだ、薄氷を踏む勝利である。

激闘を演じたガエル・モンフィス(左)と試合後に抱き合う錦織圭激闘を演じたガエル・モンフィス(左)と試合後に抱き合う錦織圭「マッチポイントのときは、気持ち的には、ほぼ終わったと思っていました」とは、偽らざる本音だろう。

 だが彼は、「終わった」とあきらめかけた崖っぷちの状況から、幾度も幾度も這い上がった。第3セットの第10ゲームで直面した4本目のマッチポイントの危機では、相手の正面にサーブを打ち込み、これまで何度もラインを割ってきたフォアの逆クロスを叩き込んだ。

 その2ゲーム後にまたも面したマッチポイントでは、サーブの直後にドロップショットを沈め、そのままボレーを決めるべくネットへダッシュ。しかし、100メートルを10秒台で走るモンフィスは、快足を飛ばしてボールに追いつくと、パッシングショットを放つ。

 万事休す......。そう思われたが、錦織が必死に伸ばしたラケットはかろうじてボールをとらえ、かくして5度目の危機をも脱した。そうしてついにはタイブレークの末に、小さな裂け目に手をこじ入れるようにして、あれほどまで遠かった勝利を掴み取る。そのときの錦織は、喜ぶこともできず、ただ、ひざに両手を当てるだけだった。

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