神尾米が語る錦織圭「彼のフットワークは天性のモノ」 (2ページ目)

  • 内田暁●構成 text by Uchida Akatsuki photo by AFLO

 過去の日本人のトップ選手と言えば、私が現役だった時代(1990年~1997年)には、松岡修造さんがいました。修造さんは頑張って世界46位まで行ったのですが、彼には大きな体格(188センチ)と、世界でもトップレベルの速いサーブがありました。「あの体格とサーブがあれば、日本人でもあそこまで行けるのか......」という希望は、修造さんが与えてくれたと思います。ただその後は、修造さんほど体格のある日本人男子選手は出てこず、他の選手もみんな頑張っていたけれど、最終的には海外選手のパワーに負けてしまうシーンを多く見てきました。だから、「日本人が持つ粘りだけでは、男子の世界で互角に戦うのは難しいのかな」と感じましたし、「修造さんは特別だったんだな」という雰囲気にもなっていたと思います。そんな既成概念を、錦織選手が変えてくれました。

 錦織選手があの体格(178センチ)で世界と戦える一番の要因は、フットワークだと思っています。錦織選手のフットワークは、他の選手のモノとは全然違います。錦織選手のすごさはいろいろありますが、すべてのベースにあのフットワークがあると思います。軽さもあれば、力強さもある――。そのフットワークの「コントロール」がすごいんです。

 例えば、現役のころの私は、「力で走るタイプ」でした。力でしっかり止まり、また力で走り出して......というフットワークだったので、ハードコートが好きだったんです。しかし、クレー(土)コートでは踏んばろうとするとズルズルと滑ってしまうので、それだけで気分が滅入っていました。

 しかし、錦織選手のフットワークは、ハードで力強さも出せれば、クレーコートで柔らかさも出せる。どのサーフェスでも、フットワークでコントロールできていると思います。これはきっと、自分で意識しているというより、天性のモノではないでしょうか。力強く守るとき、少しリラックスして力を抜いているとき、そしてメチャメチャ回転数を上げて速く走るとき......。その使い分けが、本当に素晴らしい。ラケットさばきの魔術師というより、「動き方の魔術師」という感じです。

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