スカッシュ・松井千夏、号泣。「実らなかった五輪への思い」

  • 斉藤健仁●文 text&photo by Saito Kenji

 スカッシュがもっとも注目を浴びた一日となった。

 2020年、東京で開かれることが決まった夏季オリンピックで、追加1競技の最終候補に残ったのは3つ。日本人にとって馴染み深いレスリング、野球・ソフトボール、そして日本ではマイナー競技といえるスカッシュだった。そして9月8日(現地)、アルゼンチン・ブエノスアイレスで行なわれる国際オリンピック委員会(以下、IOC)の審議を経て、そのうちひとつが正式競技として採用される運びとなっていた。

スカッシュの五輪正式競技入りを必死にアピールした松井千夏だったが......。スカッシュの五輪正式競技入りを必死にアピールした松井千夏だったが......。
 3つの中で唯一の新しいスポーツであるスカッシュは、イギリスで発祥し、「立体ビリヤード」と言われるように、四方を壁に囲まれたコートの中で、直径4cmのボールをラケットで打ち合う。コートはテニスの4分の1ほどだが、運動量は倍と言われるほど激しいスポーツだ。世界185カ国以上で2000万人の愛好者(日本は30万人ほど)がおり、ヨーロッパだけでなく東南アジアなどでも盛んに行なわれていて、男女のプロツアーも開催されている。

 これまでも、五輪種目として採用されるまであと一歩のところまできていた。2012年のロンドン五輪では、IOC委員の投票の結果、過半数(このときは3分2以上の票が必要だった)を超えたものの、他にラケット競技があることなどが理由で落選。2016年のリオデジャネイロ五輪では、7人制ラグビーとゴルフに競り負けた。つまり今回、2020年オリンピックの正式競技入りを目指した戦いは、3度目の挑戦だった。

 そんな競技を10年以上引っ張ってきた選手がいる。「美人アスリート」としても有名な松井千夏だ。左利き、バンダナがトレードマークだ。

 松井がスカッシュと出会ったのは大学1年生、18歳のときだった。高校時代まではバレーボールでセッターとして味方にチャンスを与えるポジションだったが、スカッシュは自分が得点を決められ、コートの中で主役になることができることもあって、すぐにその競技の虜(とりこ)となる。

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