【テニス】衝撃の楽天オープン。何が錦織圭を覚醒させたのか?

  • 内田 暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by Getty Images

凱旋帰国した楽天オープンで日本人初となるツアー2勝目をあげた錦織圭凱旋帰国した楽天オープンで日本人初となるツアー2勝目をあげた錦織圭 錦織圭は、こんなに強かったのか!

「今さら何を」という誹(そし)りを受けると分かりつつ、胸に迫るその衝撃を抑えることはできなかった。

 楽天ジャパンオープン3回戦、トマーシュ・ベルディハ戦。立ち上がりから錦織の眼の色は、まるで違っていた。相手の時速200キロを超える高速サーブを飛び上がるように打ち返し、ペース配分などまるで頭にないかのように、コートを縦横に駆けまわる。そして腕を振り抜き、次々と強打を叩き込んでは、相手を左右に振りまわした。ラケットがボールを捉えたときの乾いた心地良い音が、東京の夜空に響きわたる......。軽快なリズムを刻むそのインパクト音に合わせ踊るかのように、錦織の身体は躍動し、宙を舞い、その度に黄色いボールがライン際をえぐった。

「このような好調がいつまでも続くわけはない。オーバーペースではないか?」。試合中に度々抱いたその不安は、結局は単なる杞憂に終わった。先の全米オープンでロジャー・フェデラーを破った世界ランキング6位のベルディハに、「僕のプレイは良かった。だが圭は、僕が調子を上げるほどに、その上を行き続けた」と言わしめる圧巻の内容。「日本人として」や、「誰と比べて」というレベルではない。テニス選手としての、絶対的な強さだった。

 錦織がベルディハを7-5、6-4で破った直後、興奮冷めやらぬままに、コーチのダンテ・ボッティーニのもとへ話を聞きに走った。いったい、どんな戦術を授けたのか? いかにして、一夜で錦織を変えたのか? その魔法の正体を知りたかったのだ。

 そのような質問をぶつけると、コーチは「ベルディハは左右の動きに不安がある。特にフォアサイドに走った後にもろさを見せるので、フォアに振ってからバックのストレートを攻めろと言った」、あるいは「相手がスライスを打ってきたら、叩いて前に行けと言った」......そのような戦術的な話をしたあと、フッと自嘲的な笑みを浮かべて、こう言った。

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