【F1】4度目の日本GPで可夢偉が伝えたかった思い

  • 米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki 桜井淳雄●撮影 photo by Sakurai Atsuo(BOOZY.CO)

 日本GP決勝が行なわれた日曜の鈴鹿は、非常に強い勢力を持つ台風18号の接近によって朝から雨が断続的に降り続いていた。午後には雨脚が強くなることが早くから予想されており、予報通りならレース続行は不可能だろうという声が大勢を占めていた。決勝前にドライバーたちがオープンカーに乗ってコースを回るドライバーズパレードも中止になる可能性もあった。

 だが小林可夢偉は、たとえパレードが中止されたとしても自分だけはコースへ出て、応援に訪れてくれたファンに挨拶をするつもりでいた。1年のブランクを経て、F1ドライバーとしてまた鈴鹿に戻ってくることができたのは、なによりもファンのおかげという思いが強かったからだ。

ファンの声援に応える小林可夢偉ファンの声援に応える小林可夢偉「今年はファンの人たちがいて(カムイサポートの資金で)乗れたっていうことが一番大きいんで、やれるだけのことはやりたいなという気持ちはあります。ここに来てファンの人たちに手を振って声援に応えるっていうのが大事かなと思って」

 結局、雨脚が強まる中で決行されたパレードは、多くのドライバーが傘で顔を覆うようにして風雨をしのがなければならなかった。しかし、可夢偉だけは傘もささず、スタンドのファンに向けて手を振り続けた。

 それから1時間後、マシンがいよいよ決勝のグリッドへ並ぶ頃には雨が路面を打ちつけはじめ、瞬(またた)く間に豪雨になった。それはまるで、波に乗れないどころか最悪の流れにどんどん流され続けた日本GP週末の可夢偉を象徴するような雨だった。

 水曜の昼前になってようやく日本GPへの出場が決まった可夢偉は、その日の夜に鈴鹿入りして週末の戦いに備えた。木曜の恒例となっているコースウォークでは、そこに居合わせた一般のファンに囲まれて身動きが取れなくなるほどの事態に陥ることも一度や二度ではなかった。それでも可夢偉は笑顔を絶やさず、できる限りサインに応じ続けた。

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