【F1】ドライバー絶賛。「世界最高のサーキット」鈴鹿の魅力とは

  • 米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki  桜井淳雄●撮影 photo by Sakurai Atsuo(BOOZY.CO)

 初日から何人ものドライバーがミスを犯し、タイヤバリアの餌食になった。キミ・ライコネンでさえも、高速コーナーでスピンしてグラベル(砂利道)に埋まった。

 今年の鈴鹿は風が強く、その影響もあった。風向きによってはウイングに当たる走行風が増減して、突然ダウンフォースが抜けてグリップが失われるからだ。

 そんな鈴鹿で、ベッテルはポールポジションを獲り逃して2位(ポールはマーク・ウェバー)。KERS(運動エネルギー回生システム)にトラブルが発生し、6.7秒間の80馬力のブーストが使えなかったからだ。その不利は1周あたり0.5〜0.7秒にもなる。

 メカニックたちの作業によって決勝までにトラブルは修復されたが、レッドブル勢はスタートで出遅れ、予選4位のロマン・グロージャン(ロータス)に首位を奪われた。ベッテルは3位に転落してしまった。

 レース中盤を迎えてもベッテルは3番手のまま。先に最後のピットストップを終えたグロージャンが新しいタイヤでペースを上げていくのに対して、ベッテルはそれよりも遅いタイムでダラダラと走り続けていた。

 追い抜きが難しい鈴鹿で、優勝はもはや絶望的かと思われた。しかし、それこそが彼らの戦略だった。

 ベッテル陣営はあきらめていなかった。それどころか、グロージャン攻略に向けてスタート直後にすぐさま頭を切り替え、戦略を練っていた。

「セバスチャン、タイヤをいたわるために前との間隔を広げてくれ。2秒差で走ってくれ」

 スタートで3位に落ちた直後、前走車の乱流を受けてダウンフォースを失わないよう、レースエンジニアのギヨーム・ロクランは指示した。

 オーバーテイクが極めて難しいと言われる鈴鹿で追い抜きを実現する方法。それは、相手よりも格段に新しいタイヤを履き、相手よりもグリップの高い状態で走ること。

 その状況を作り出すために、ベッテル陣営はタイヤをいたわってピットストップを遅らせ、グロージャンよりも後でタイヤ交換をする戦略に出た。第1スティントで2周、そして第2スティントでは6周、グロージャンより長く走ったベッテルは、最終スティントでグロージャンよりも8周も新しいタイヤを履いて彼に襲いかかることになったのだ。

 勝負は最終スティントと狙いを定め、最後の最後にこの状況を作り出すために、彼らは37周目まで耐え続けたのだ。

「第1スティントから長く引っ張って、レースの終盤に(短いスティントで)プッシュするつもりだったんだ。だからフレッシュタイヤのライバルたちよりも少し遅いペースで粘らなければならないことも折り込み済みだった。タイヤをいたわるために忍耐が必要だったけど、忍耐できたからこそロマンを抜くことができたんだ」(ベッテル)

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