【F1】新シーズンを占う最大のカギ。
ピレリの新タイヤはこれだけ変わった

  • 米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki photo by Yoneya Mineoki

新タイヤの特性を説明するピレリの開発者たち新タイヤの特性を説明するピレリの開発者たち"「これはアグレッシブなタイヤだ。これまで以上にデグラデーション(走行による性能低下)が大きい。各チームにとっては新たなチャレンジになる」

 モータースポーツダイレクターのポール・ヘンベリーはそう語る。

 F1参戦以来、ピレリは意図的に性能低下の速いタイヤを作ることでレースを波乱に富んだものにしてきた。しかし、昨年後半のレースがいずれも面白みに欠けたことは事実だ。

「各チームのタイヤ理解が進んだことでデグラデーションが抑えられ、昨シーズン後半は激しい競争が少なく、1回ストップで走り切れるレースも少なくなかった。だから我々はフレッシュな挑戦を用意すべく、今年に向けてタイヤ開発を進めてきたんだ」

 ステージ上に並んだ2013年タイヤは、タイヤの2大要素であるコンパウンド(表面のゴム)、そしてコンストラクション(内部構造)のいずれもが新設計となり、昨年までとはまったく異なるタイヤとなっている。

 スーパーソフトからハードまでのドライタイヤ4種類のすべてが、表面のゴムが柔らかくなり、グリップが増した。新たにオレンジ色のロゴが刻印された今季型ハードタイヤは、昨年のミディアムと同レベルにまで柔らかくなっている。

 さらに内部構造の変更によって路面に接地する面積を増やし、一段とグリップを高めている。とりわけ、コーナーの出口に向かって加速していく際のリアグリップ向上は昨年までの弱点を克服するものだ。ブレーキング時の安定性に欠けるという弱点にもメスが入る。

「ミッドコーナーからのグリップとトラクションは向上する。これによってドライバビリティが向上するだろう。ブレーキング特性も変わってくるはずだ。F1参戦以来、我々はこの点についてはドライバーからの要望を受けて方向性を変えてきている。ラップタイム向上という意味でも、またオーバーテイク増加のためにも、ブレーキングエリアでの許容範囲が広がるのはポジティブなことだ」(ポール・ヘンベリー)

 このタイヤの進歩によって、ラップタイムにして1周あたり0.5秒の性能向上が見込まれている。それと同時に、ドライバーたちから不満の多かった運転のしづらさの改良にもつなげているのだ。速くてバトルができる、というのが2013年のタイヤだ。

 一方で、デグラデーションの速いタイヤにすることで、レース中のピットストップ回数が増える。増えれば増えただけ、レース展開にはさまざまな選択肢が増える。さらには各スペックの性能差が0.6~0.8秒と大きくなっているため、速さをとるか寿命の長さをとるか、各チームには戦略面での自由度が広がる。それはつまり、さまざまな戦略が入り乱れて予測不能のレースになりやすいということだ。

「コンパウンドのソフト化と、コンストラクションの剛性向上によって熱特性を変化させ、デグラデーションの増大を念頭に開発を進めた。少なくとも2回のピットストップになるようなタイヤだ。それこそが今のF1に求められているものだからね」(ポール・ヘンベリー)

 それ以外にも変更点は多々ある。たとえば作動温度領域を拡大している点。これにより幅広いマシンセットアップが可能になり、昨年までのようにセットアップの"当たり外れ"がはっきりと明暗を分けてしまうようなことは少なくなるはずだ。

 ほかにも、フロントとリアの温まり方がアンバランスだという点にも対応がなされた。これも各チームからリクエストされていたもので、現行のF1マシン規定では前後のダウンフォース量からしてマシン側での解決が難しく、タイヤ側で合わせ込んだということだ。

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