【競馬】愛馬のダービー制覇に落ち込んだ生産者の「胸中」

  • 河合力●文 text by Kawai Chikara
  • JRA●写真

『パカパカファーム』成功の舞台裏
連載●第38回

フェノーメノとの叩き合いを制して、見事ダービー馬に輝いたディープブリランテ。競馬場に訪れていた生産者であるパカパカファームのスタッフたちも、その姿を目の当たりにして大いに沸いた。しかしその輪の中にあって、喜びを爆発させることなく、激しい後悔で胸を痛めていた人物がひとりだけいた――。

第79代日本ダービー馬に輝いたディープブリランテ。第79代日本ダービー馬に輝いたディープブリランテ。 2012年の日本ダービー(5月27日/東京・芝2400m)。直線で先に抜け出したディープブリランテに、ゴール前で外から強襲したフェノーメノ。内外離れてゴールした2頭の戦いは、写真判定に持ち込まれた。そして、ゴールを駆け抜けたディープブリランテが鞍上の岩田康誠騎手に導かれてスタンド前に戻ってきたとき、電光掲示板の1着欄にディープブリランテのゼッケン「10」の文字が灯った。第79代日本ダービー馬の誕生である。

 ディープブリランテの生産者であるパカパカファーム代表のハリー・スウィーニィ氏は、「とにかく興奮していました」と、歓喜の瞬間を思い出す。

「ブリランテが勝ったとわかって、すぐにアイルランドにいる妻に電話しましたよ。1回目はつながらず、もう一度かけ直しても、なかなか出ませんでした。そのとき、周りの人たちが次々に『おめでとう』と祝福してくれたので、私はコールしている電話をほったらかしたまま、皆さんと握手をかわしていました。途中でハッと思い出して、電話の受話器を耳に当てると、どうやら2回目の電話でつながっていたようで、延々待たされていた妻が電話口で『もしもし? どうしたの?』と不安そうな声を出していました(笑)。それですぐにダービーの勝利を報告したら、受話器の向こう側で飛び上がるようにして喜んでくれましたよ」

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