【競馬】実は「ダービー断念」を進言していたブリランテの生産者

  • 河合力●文 text by Kawai Chikara
  • JRA●写真

『パカパカファーム』成功の舞台裏
連載●第34回


クラシック一冠目の皐月賞に挑んだディープブリランテ。好スタートを切った同馬は、前走と同様、1コーナーの入り口で激しく行きたがる素振りを見せた。戦前の不安が現実となる中、ディープブリランテの生産者・パカパカファームのスタッフは、どんな思いでこのレースを見届けていたのか――。

 パカパカファームの生産馬、ディープブリランテが出走した2012年の皐月賞(4月15日/中山・芝2000m)。スタート後、メイショウカドマツとゼロスの激しい先手争いが繰り広げられる中、ディープブリランテは離れた3番手で追走した。

 2頭の逃げ争いにより、前半1000mは59.1秒と速いペースとなった。だが、その流れの中でも、ディープブリランテはスタートから頭を上げ、『もっと前に行きたい』という意思を盛んに示した。前走のスプリングS(2012年3月18日/中山・芝1800m)で見せたかかり癖を、ここでも露呈してしまったのだ。

 中山競馬場に訪れていたパカパカファーム代表のハリー・スウィーニィ氏は、この姿を見て、厳しい戦いになることを予想した。

「ディープブリランテは、どうしても『(レースで)リラックスできない馬なんだ』と感じましたね。つまり、前走で引っかかったのは偶然ではない。おそらく何度やっても、同じように引っかかってしまうのだ、と。こうなると、さすがに勝利するのは難しくなります」

 一方、同じく競馬場でレースを観戦していたパカパカファームのフォーリングマネージャー(生産担当)伊藤貴弘氏は、行きたがるディープブリランテを目の当たりにしても、勝利への望みは捨てていなかったという。

「スタート後、多少かかってはいましたが、レース運び自体はスムーズで、3コーナー付近を迎えたときの手応えも十分でした。また、有力馬たちはかなり後ろの位置取りだったので、これなら『行けるかも』と思いましたね。強敵と見ていたワールドエースは大外を回していましたし、押し切れるような気がしました」

 伊藤氏の言葉どおり、ディープブリランテは前半で引っかかりながらも、3コーナーから徐々に進出。十分に優勝を狙えそうなレース運びで、最終コーナーを迎えた。

 このとき、1番人気のグランデッツァと、2番人気のワールドエースは、後方から大外を回って加速。当日の芝コースは水分を含んだ「やや重」であり、各馬は芝の荒れたインコースを避けて、外側へと進路を取っていた。そして、その馬群の一番外側を走っていたのが、人気上位の2頭だった。

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