【競馬】のちのダービー馬を世に知らしめた「一通のハガキ」

  • 河合力●文 text by Kawai Chikara

『パカパカファーム』成功の舞台裏
連載●第28回

パカパカファーム代表のハリー・スウィーニィ氏は、日本最大の競走馬セリ市「セレクトセール」に、生後わずか2カ月のディープブリランテを上場した。競走馬としては"遅生まれ"の5月8日に誕生した同馬は、生まれた時期による成長のハンデを抱えていたが、スウィーニィ氏にはそのハンデを克服するためのアイデアがあった――。

 日本競馬の生産界を代表する社台グループが運営する、競走馬のセリ市「セレクトセール」。2009年は7月13日~15日に開催された。2012年の日本ダービーを制したディープブリランテも、この舞台に立った1頭だった。

 5月8日という"遅生まれ"のディープブリランテ。生後わずか2カ月の馬が、それも日本中のトップレベルの馬たちが集うセレクトセールに出されることは、極めて異例だった。なぜなら、2、3月生まれの馬たちに比べ、馬体のサイズで大きく劣ってしまうからだ。ディープブリランテを生産したパカパカファーム代表のハリー・スウィーニィ氏も、「上場」という決断は悩みに悩んだ末に下した。

 しかし、生まれてから日増しに成長するディープブリランテを見るうちに、その決断に「間違いはなかった」と、スウィーニィ氏は安堵したという。

「ディープブリランテは、生まれてから日ごとによくなりました。サラブレッドは、生まれたときの姿はもちろん、そこからの成長力も重要。生まれたときの馬体が素晴らしくても、成長力で劣ってしまう馬はいます。でも、ディープブリランテはどんどん成長していきました。これなら、たとえ"遅生まれ"でも、セレクトセールで評価してもらえると思いましたね」

 2、3月生まれの馬たちと比べればまだ見劣るが、それでもある程度まで成長すれば、この馬体が持つ素質を見抜いてくれる――それが、スウィーニィ氏の考えだった。

 とはいえ、ディープブリランテと同じ当歳(0歳)でセレクトセールに上場される馬は300頭を超える。現場で一頭一頭、すべてをくまなく見るバイヤーは少ない。となると当然、事前に配られるカタログの写真で目星をつけてから、バイヤーはセリ会場に訪れる。

 そこで重要になるのは、カタログに掲載される写真だ。だが、カタログ制作にも時間がかかる。上場馬の写真提出の締め切りは、5月12日だった。つまり、カタログに掲載されたディープブリランテは、生後4日時点の姿だったのだ。これでは、いくらセレクトセールまでに素晴らしい成長を見せても、バイヤーはカタログの写真を見た時点で敬遠してしまう可能性があった。

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